学内コンクールが終わって二週間。
見事伝説のヴァイオリン・ロマンスを達成した、コンクール総合優勝カップルは、一躍有名になっていた
―――男は音楽科三年、火原和樹、トランペット専攻。
女は普通科二年、日野香穂子、趣味ヴァイオリン。
コンクール参加者である二人は、音楽科と普通科の壁を越え、出会い、恋をした。
そして四つのセレクションの結果、偶然にも二人は同点での総合優勝を果たした。
実質一位は、香穂子の辞退により火原のものとなったが。
コンクール後、香穂子は音楽科への編入を薦められるが、それをも辞退した。
…とまぁ、こんなあらすじからこの物語は始まるのだった。






星奏学院の音楽室。火原はたまたまこの場に来ていた。
オケ部の練習があるので、よく来るには来るが、今はテスト期間前。
部活動は禁止されている。
そして、扉を開けようとした瞬間、聞き慣れた音が聞こえてきた。

「…あ、香穂ちゃんの音だ♪」

ここのところお互い忙しく、なかなか演奏を聴くことが出来なかった。
もちろん、科も違うため、会うのは登下校だけだったのだ。
火原はうきうきしながら音楽室の扉を開けたが…

「つ……ちうら?」

そこにはウォーミングアップをしている香穂子と、ピアノの前に座っている少年がいた。
―――土浦梁太郎。
やはり香穂子と同じく、普通科からのコンクール参加者だったその少年と香穂子は、楽しそうに話をしていた。

「土浦くん、ごめんね。お手伝いしてもらっちゃって…」

練習前のいつのも指慣らしをしながら香穂子は言った。

「別に構わないぜ。暫く弾いてなかったから、鈍ってるけどな」

その時、火原に気付いたらしく、土浦がこちらをチラッと見てきた。
しかし、香穂子はと言うと、一向に気付かず、話を続ける。

「すごく助かる!真奈美ちゃんも忙しいらしいし、真奈美ちゃんと土浦くん以外のピアニストって、直接知らないし…」
「弾ける人を知らない?そんなことないだろ?だって…」

また土浦が火原をチラッと見た。
だが、香穂子は気付かない。
…火原は居たたまれなくなって、音楽室をそっと出て行った。






「…あれ?今、ドア開かなかった?」

香穂子の言葉に、土浦は大きく溜息を吐いた。

「……お前、馬鹿なぁ」

つい本音が出てしまった。
あまりにも火原が可哀想で、土浦は同情していたのだ。

「何よ〜」
「これじゃ、火原先輩も大変だな」
「えっ…和樹先輩がどうかした?」
「さあ?多分屋上にいるから行ってみろよ」
「う、うん…」

言われるままに、急いでヴァイオリンをしまって、屋上へと向かった。






「うぅぅ、香穂ちゃんひどい…」

屋上の端に座り込み、泣き真似をしてみる。
涙は出ていないけど、ホントに泣きたい気分だった。
確かに彼女は普通科の生徒だから、知らなくても仕方がないだろうが…


「それにしたって、他の男に頼るなんて…ちょっとぐらい相談してくれたって

独り言で呟く。周りには誰もいなかった。

「…それに、おれだってそれなりになら―――」
「―――和樹先輩っ!?」
「な…んでここにいるの?」
「土浦くんが、先輩が屋上にいるから行ってこいって」

火原は慌てて走ってきたらしい彼女を横に座らせ、
心配そうに自分を見ている香穂子の頭を撫でた。

「きみや土浦に迷惑かけちゃったね、ごめん」

きっと、気を遣ってくれたんだろうな。
火原は後でちゃんと土浦に謝ろうと決めた。
でも、香穂子は引き下がらなかった。

「どうして先輩が謝るんですか」
「だって、土浦との練習、邪魔しちゃったし」

その言葉を言った瞬間、香穂子の顔色が変わった。

「…先輩、知ってたんですか?」
「今さっき知ったんだよ。おれが音楽室に行ったの気付かなかったでしょ」

彼の言葉に、申し訳なさそうに、はい、と呟く。
その姿を見て、いつもなら許しているのだが…

「もうそろそろ戻った方がいいんじゃない?土浦、待ってるよ」

わざと突き放すように言った。

「先輩っ…」
「だって、ピアノ伴奏、土浦に頼んだんでしょ?」
「そうですけど…」
「それなら練習しないと…早く、音楽室に戻らないと駄目だよ」
「―――でも、そんな顔をした先輩をおいて、どこへもいけません」

サッと取り出された手鏡に映った火原の顔には、大粒の涙が流れていた。

「あれ…おれ、何で泣いてるんだろ?」
「先輩。私の前では隠し事しないで下さい」
「香穂ちゃんだって…おれに隠し事してるじゃん…」
「私も話します。隠してたことも、何で隠していたかも全部…」





そうして、火原がつれてこられたのは、土浦が待っているであろう音楽室だった。
予想通り彼は、先程と同じピアノの前に座って指慣らしをしていた。

「おっ…」

土浦は、火原の姿を認めるや否や、にやーっと目を細めて笑った。
あの顔は、彼の友人であり土浦の先輩でもある長柄が、
火原をからかうときに見せる笑顔だった。

「土浦くん。先輩に曲を聞かせたいの」
「OK…大丈夫か?」
「うん」

ヴァイオリンの準備をしながら短く答える。
土浦はやれやれ、と肩をすくめる。
―――そして準備が終わり、前奏が始まった。

(あれ?この曲は…)

その曲は、火原にとっての思い出の曲だった。

「…エレジー」

ポソッと呟いた火原に土浦は笑いかけた。
まだ未熟な部分もあるが、気持ちがこもっている。
…そして演奏が終わった。

「さ、火原先輩。なんか香穂に聞きたいことでもありますか?」
「……」
「下手でごめんなさい。和樹先輩はあんなに上手に吹いてたのに」

香穂子は一息吐いた後、話を続けた。

「先輩と付き合い始めて、もうすぐ一ヶ月だから、その記念に弾きたかったんです…」

香穂子は顔を真っ赤にさせて、恥ずかしそうにしている。
顔は本当に申し訳なさが見えた。
そんな彼女を愛おしく思った瞬間…

「―――香穂ちゃん!」

火原は人目をはばからず、香穂子を思い切り抱きしめた。

「か、和樹先輩っ」
「ごめんっ!おれ、そんなに香穂ちゃんが思ってくれてたの気づけなくって…」
「いいえ。私が考えなしだったんです。だから先輩にも迷惑かけて…」

今度は、香穂子の方が抱いている力を少し強めた。

「香穂ちゃん…」
「和樹先輩…」

二人は少し体を離し、じっと見つめ合う。そしてお互いの顔を近づけて…


「…ちょぉっとまったぁ」

「「わっっ!?」」

キスの直前に、第三者の制止の声が入り、二人は逆方向に離れた。

「二人とも、俺がいること忘れてただろ」

その声の主は……土浦だった。肘をつき、呆れ顔で二人を見ている。

「あ…土浦、くん…」
「ちなみにここは公衆の面前。さっき来た天羽の写真が号外に載っても、諦めることだな」

そして立ち上がると、明日の練習は無しな、と告げて音楽室から出て行った。
よくよく見ると、周りには、オケ部の部員や音楽科の生徒たちがチラチラとこちらを見ている。






慌てて音楽室を飛び出し、二人きりになれそうな練習室に入った。
そして、外から見えないところに腰をつくと、はぁっと息を吐いた。

「あは、はははは!」
「は、ははは…!」

顔を見合わせ、二人とも笑った。
ひとしきり笑った後、香穂子は火原の目をじっと見ながら言った。

「…先輩。約束ですよ。何を隠し事してたんですか?」
「―――あ、そうそう…おれの隠し事はね…」

おもむろに立ち上がり、練習室のピアノに向かう。

「おれだって、なーんにも考えてなかった訳じゃないんだから」

ポロロンと鳴らした後、火原はそれ以上何も言わずに曲を弾き始めた。
…香穂子には前奏を聴いて、何の曲だか理解した。
そうだ…それは、先程のエレジーと同じくらい、
いや、それを遙かに超えるくらいの、記念の曲だった。

「……香穂ちゃん。覚えてる?」

火原は演奏しながら、香穂子に問いかけた。
香穂子は首を縦に振り、急いで答える。

「は、はい…愛のあいさつ、ですよね…」
「よくできました!」

パッと演奏を止め、再び立ち上がった。

「おれの隠し事はピアノが弾けて、なおかつ愛のあいさつを練習してたことー」

流石に土浦やピアノ専攻の人には負けるけどね、と笑いながら付け加えた。

「それでも香穂ちゃんの伴奏くらい出来るし…だから、土浦に伴奏を頼んだのが悔しかったんだよ」
「でも…」
「あ、もちろんわかってるよ!内緒にしておきたかったんだよね」

隣に座る香穂子の頭をくしゃくしゃ、と撫でる。

「でも、心配だったんだから…ジェラシーってやつかな」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ!もう、水に流そう?」

そういうと、いつもの笑顔でにぱっと笑い、ピアノの方に顔を戻した。

「一ヶ月記念の日に、エレジーを一緒に吹こう。ユニゾンになっちゃうけど、きみとなら絶対合わせられるから。それで…」
「それで?」
「愛のあいさつを合奏しよう。おれもたっくさんピアノ、練習しておくから!きみの伴奏が出来るくらいにするから!」
「はい…!」





次の日の朝に、新聞部が配っていた号外の一面には、でかでかと、

「ヴァイオリン・ロマンスの結んだ恋!学院内でもラブラブ!?」

などと書かれ、二人の写真が載っていたのは、また別の話…


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後書きと称した言い訳

相変わらずの駄文です。土浦くん、ごめん。
愁情高めの香穂子ちゃんです!ので、珠玉の「エレジー」吹いてもらってます。
コルダ初SSは、火原くんですね。これからどんどんコルダ、増やしていきますよ!
愁情高めなので、土浦くんとも仲がいいです。
香穂子は意識してないけど、土浦、恋心を持ってたけど、今は諦めて、
二人の行方を見守ってます。
でも、「香穂」って思いっきり呼んじゃってますけどね(笑)
次は後輩からのリクエストで、柚木×香穂子書きたいと思いますが…
火原に転ばないよう気をつけますw
だって一番好きなんだもん!!


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