ときどき感じる、私たちの間の溝。

男とか女とか。

音楽科とか普通科とか。

家が遠いとか近いとか。

…そういうのは全然問題じゃなくて。

あの人と私の間に横たわる溝は…<年齢>で。

どんな最先端技術を使っても決して埋まらない溝なわけで。

それがときどき…無性に、淋しくなる―――







『すれ違い。 KAHOKO.H』







「香穂ちゃん!」


誰かに声をかけられ振り返る。

その声の主は、私の予想通り、和樹先輩だった。

コンクールが終わって、先輩と付き合うようになってから、

こうして校舎内でたまに会うと、いつも私の名前を呼んでくれる。

それがあまりにも元気良くて。

私も負けないように、手を振って返すと、それよりもずぅっと大きく手を振ってくれるの。


…優しい、和樹先輩。


「和樹!金やんが探してたぞ」

「あ、やっべぇ…じゃ、香穂ちゃんまたね!」


音楽科の人に告げられ、忙しそうに走り去っていく先輩の姿は、

その……嵐のような人だなーっていつも思う。

でも、嵐ってすぐに去っていってしまうから、

知らない間に先輩もどこかに行っちゃうんじゃないかと、不安も感じてる。

これは先輩には内緒だけどね?


「…先輩」


もう見えなくなった背中に向かって呼びかける。

しかし、呼んでみても、決して答えは返ってこなかった。






放課後。

少しレッスン室に籠もってみる。

コンクールが終わってから、つい疎遠になりがちだったレッスン室だけど、

ここには思い出もたくさん詰まっていた。

けど、やっぱり音楽科の白い制服に混じるのは、とても気まずい。

ましてや、コンクールで優勝という快挙まで成し遂げてしまった。

正直言えば初めは「普通科のくせに…」と、言われることも多かった。

それをかばってくれたのは、やっぱり和樹先輩。


「……さ、ヴァイオリン弾こっと」


いつも持ち歩くのが癖になってしまったヴァイオリンをケースから出して構える。

こうして、和樹先輩の次に大好きなヴァイオリンを弾いていれば、

これ以上――――何も考えなくてすむかもしれないから。



…タラララ、タラララ、ラ、ラ、ラ……



懐かしい曲を奏でてみる。

初めてヴァイオリンで弾いた曲。

そして、初めての合奏を、

和樹先輩とこのガボットでしたのは、今でも鮮明に残っている。

まあ、懐かしいといってもほんの数ヵ月前の話だけどね。


「あはは…何やってるんだろ?」


何も考えないようにしにきたのに、こんな曲吹いちゃったら……!


「―――せん、ぱい…和樹先輩…!」


すごく、淋しい。


折角考えないようにしていたことが、頭の中いっぱいに広がる。

あと数ヵ月でこの学校から卒業しちゃう。

思い出したくなかった。

忘れていたかった。

先輩と一緒にいられる時間が少なくなるなんて――――

今、隣に先輩がいないというだけで、こんなにも、心がすっぽり隙間が空いてるのに。

ずっと離ればなれになると……私はどうなるの?

そんな想いが涙になって流れ出した瞬間。



     カチャッ

「あ、やっぱり香穂ちゃんだ」



そういって、レッスン室のドアを開けたのは、和樹先輩、だった。


「うわっ、香穂ちゃん、どうしたの!?どこか痛いの?」

「和樹先輩…!」


ぼろぼろ涙を流したまま、和樹先輩に抱きついた。

制服、濡れちゃったらごめんなさい。


「どうしたんだい?」


そんな私の頭を、子供相手みたく撫でながら、優しく聞いてくる。


「…さみしくて」

「ん」

「辛いんです。もうすぐ先輩は卒業なのに、先輩がいない生活が考えられないんです」

「香穂ちゃん…」

「今だって、少し離れてただけでも、こんなに悲しくなっちゃうんです」


そういうと、和樹先輩は私のことを、さっきより強く、私のことを抱き締めてくれた。


「香穂ちゃん、俺、すっごい嬉しい。香穂ちゃんが俺のこと、こんなに思ってくれてるなんて!」


そして、子供をあやすように、頭を撫でてくれる。

いかにも先輩らしく、私の髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらい撫でていた。


「…ふふっ」

「あ、やっと笑った!―――あ、ごめん!髪の毛ぐしゃぐしゃにしちゃった!」

「いいんです。先輩、ありがとうございます」

「…ね、香穂ちゃん」


和樹先輩の声色が変わった…優しく、私を包み込むように暖かい声で続ける。


「俺か卒業して寂しいって思ってくれるのは、とっても嬉しい。でもね」


私の髪を手櫛で梳いてくれている。

その手は、さっきのぐしゃぐしゃにしたときよりも、ずっと繊細で。

まるで楽器を扱うように優しかった。


「その所為で香穂ちゃんが悲しい思いをするのは、俺、すごく嫌だ」


先輩の大きな手が動きを止めたので、つい私が顔を上げると……

目の前に和樹先輩の顔があった。

そしてそのままキスが唇に落とされた。


「ね。香穂ちゃんには、笑顔が一番似合うから、いつも笑顔でいてほしいんだ」

「和樹先輩……」


そんな先輩の気持ちが嬉しくて、私はまた涙をポロポロと流してしまった。


「ご、ごめんっ!俺、また変なこと言っちゃった!?」


私の涙を誤解したらしく、先程までのシリアスさはどこへやら。

慌てふためく先輩を見てまた笑ってしまった。


「先輩、違います。和樹先輩の気持ちがとても嬉しかったから…」

「あ…な、なんだ……俺の所為で泣かしちゃったのかと思ったぁ」

「和樹先輩の所為です」

「うそ!?ごめんねっ!」


本当にこの人は一緒にいて飽きない人だなぁ、と改めて実感。


「和樹先輩が嬉しいことを言ってくれたから。先輩のせいなんです」





その後、私たちは一緒に手をつないで下校した。

本当は腕を組んで歩きたかったんだけど、先輩が恥ずかしがるから……


「先輩、暖かいです」

「うん。俺も」


離れるのは、辛いけど。

でも先輩を悲しませるのはもっと辛い。

せめて一緒にいられる時間を大切にして。

頑張ろうと思う。


だから今だけは――――――



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後書き……?

コルダSS第二弾☆
香穂子ちゃん視点で話が進んでいますが、これと対になって火原先輩視点の話もあります。
まだupしていませんが、『すれ違い』は

KAHOKO.H → KAZUKI.H → K.H

の三本立てになります。
す、すぐにupしたいです……気力が許せば。
頑張ります。


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