あまりに突然の出来事だった。
マイエラ修道院前の川沿い。
バンダナをした少年と、騎士団の格好をしている青年がいた。
そこから少し離れて、彼らの仲間が待機している。
元はと言えば、この青年が「少し話したいことがある」と言って
少年はここに連れてこられた。
しかし、その内容は、予想していたものとは全く違っていた。
てっきり今後の作戦や、仲間に入ったばかりの彼自身の
少年に対する要望その他だと思っていたのに。
目の前の青年は、今、とんでもないことを口にした気がした。

「…え?今、なんて……」

少年は聞き返す。
すると青年は少し溜息を吐いて、先程と同じ台詞をもう一度言った。
「だから、この指輪とともに、オレの命をお前に預けるって言ったんだ」
青年―――ククールは、手袋を外して、
いつも右手の薬指にはめていた騎士団員としての証を
少年の薬指にはめた。

「どうして…?」
「どうしてって。お前のことが好きだからだよ」

それ以外に大切な指輪をやる理由があるか?
そう言って、笑みを浮かべた。

「じゃ、大切にしろよ。それがある限り、オレはいつでもお前とともに」

言い残して、マントを翻し、仲間の元へ戻っていった。
まだ、彼のことを何も知らないのに。
それでも彼は自分に命を預けると言った。
どうして?
少年は指輪をジッと見つめる。

「ククールの…命」

薬指にはめられた指輪を撫でる。


「「大切に」」


いないはずのククールの声と重なった気がした。

「―――ナット。そろそろ行くわよ!」
「あ、うん…」

ゼシカの声に、ナットは頷いて仲間の元へ駆けていった。









□ ユメミゴゴチ □   










「―――眠れない…」

何だかんだでドニに着いた頃には、夕刻が近づいていた。
そこで、今日はこの街で宿をとる。
しかしナットは、ベッドへ潜り込んだまではよかったのだが
先程の出来事が頭の中をぐるぐる回っていてなかなか寝付けなかった。
すると、ベッドの真横に、すっと影がおりてきた。

「…眠れないんだろ」
「ククール…?どうし―――」

どうしたの、と聞こうとした口は、
突然何かにふさがれた。
そのまま口の中に、液体を注がれる。

「これでゆっくり眠れるだろ」
「なに…これ…」

ナットは条件反射でそれをごくりと飲み干す。
と、ふっと体の力が抜けた気がした。

「さっさと寝ないと、明日に差し支えるからな」
「…うん」

それが何であれ、ナットは嬉しかった。
意識が遠のいて、うまく眠りにつけそうだったからだ。





次の日、ベッドサイドにはアムールの水が置かれていた。
どうやら昨日に飲んだのはこれだったようだ。

(……でも)

あの時は意識が朦朧としていて、気づかなかったが
アムールの水を、口移しで飲まされた事実に
その日一日、頭がパンクしそうなくらいの恥ずかしさがナットについてきた。





「……ってば…ねぇ、聞いてるの!?」
「―――っ!」

突然耳元で怒鳴り声が聞こえて
はじめて自分の意識がどこかへとんでいたのに気づいた。
ずいぶん器用なことに、先頭を歩いてるにも関わらず、
なんとか道沿いに進んでいたのだが。

「ご、ごめん…」
「ったく。なんか、昨日からボーッとしてることが多いけど、どうしたの?」

ゼシカのその言葉に、一昨日の夜のことを思い出して
再び顔が真っ赤に染まった。
そんな少年の様子を見て、ゼシカは何かを悟ったようだ。

「ははーん。さては、あの街のバニーちゃんに一目惚れしたのね」
「ちがうよ」

それだけは断言できる…と、思う。
ナットは頼りなさげに答える。

でも。

そうすると自分はひょっとして同性愛者?
といった疑問点が頭の中を駆けずり回ってしまう。
そして、それについて考えていると、
いつの間にか他人にはボーッとしているように見えていたのだろう。

「…城が見えたでがすよ!」

少し前の方を歩いていたヤンガスの声がした。

「ま、いいけどね。戦闘中はしっかりしてよね」
「うん」
「それじゃ、いこっか」

ゼシカは少年の手を取って走りだそうとした
―――が、その手は空を切った。

「「…え?」」

手を取ろうとしたゼシカも、手を差しだそうとしたナットも
顔には疑問符が浮かんでいた。
手をククールに掴まれて、ナットはゼシカよりも少し前を歩いていた。

「ク、ククール!」
「…ゼシカと……」

小さな声で呟いたので、何が言いたいのかは分からなかったが
ギュッと握られた手は放してもらえなさそうなので、仕方なく黙ってついていく。

「……へぇ」

そんな姿を見てゼシカは、少年の本意はともかく、ククールの気持ちを理解した。

「ふーんふーん…ククールってそう言う人なんだぁ…」







川沿いにある教会に辿り着く。
既に夜更けに近くなっていた上に、
教会の好意によって、教会に泊めてもらえることとなった。

「―――」

ふと、ナットは深夜に目を覚まし、部屋を見回した。

「…あれ……?」
隣で寝ているはずのククールと、向かいに寝ていたはずのトロデ王の姿がなかったのだ。

「外、かな」
入り口付近の窓から、外を見ると……やはり、二人はいた。

(何を話してるのかな…)

見たところ、ククールが何かを語っているような感じだった。

「―――」

ちょうど、トロデは教会とは真逆の方向を向いているので、彼に気づくことは無かったが――


(出てきてみろよ)


ククールの目がそう語っているような気がした。
幸い、扉はどちらかが開けたままになっているので、
物音を立てずに外に出られそうだった。
そのまま、こっそりと聞き耳を立てる。

「……で、それからマルチェロはオレを目の敵にしてる。
そりゃそうだよな。オレさえうまれなければ、兄貴は領主の息子として、
こんな修道院に預けられることもなかったからな」
「…おぬしも難儀な人生をおくっているのう。まるであやつみたいじゃ」
「あやつ?」

チラッと、少年の顔を見る。
突然話はククールの身の上話から、こちらへ矛先が変わっているらしい。

「そうじゃ。あやつは突然身一つでトロデーン国に現れた。聞けば、身よりも無いという話じゃった」

自分のことが話されてるのを聞くのは、とても居たたまれない気がして
少年は教会の中へ戻った。
そして、何事もなかったように、布団に潜り、目を閉じた。
しかし、すぐに眠りにつける訳ではなかった。
頭の中には、先程のククールの話が脳の隅にこびりついていた。


   『親が死んで――』


どこか、自分と同じ空気を感じていた。
でも、そんなところで一緒じゃなくてもいいじゃないか…
気がつけば、明け方近く。
トロデも部屋へ戻ってきて、ベッドにはいってたったの一分ほどでいびきが聞こえてくる。

「…起きてんだろ?」

その後すぐに戻ってきたククールにそう声をかけられ、
少年は狸寝入りを止めて、起きあがった。

「つまんねぇ話だろ」
「そんなこと…!」
「……そっか、同じ境遇…だからか」

小さく溜息を吐いて続ける。

「あんなのだけど。兄貴がいるだけ、オレのがマシかもな」

やはり、少年の話もトロデからしっかりと聞いたようだ。

「ま、あんまり堀りかえさねぇさ」
「――ねぇ、ククール…この間の夜の……」

少年の言葉は、気恥ずかしさからか、続かなかった。

「ちゃんと眠れたろ?あの水にちょいと睡眠薬をまぜておいたからな」
「そうじゃなくて…なんで」
「あんなことをしたか。だろ」

図星だった。

「好きじゃなきゃ、あんなことしねぇよ」
「すきって…」
「言っただろ。お前に、命を預けられるくらい、お前のこと信用してんだよ」
「でも、それと好きは…」
「…しっ……そろそろみんなが起きてくる。オレもベッドに入ってないと不審に思われそうだからな」

この話は後でたっぷりしてやる。そう言い残していった。
少年の胸の中には、やはりもやもやが残ったままだった。







「今日はここで野宿ね。不本意だけど…」

ゼシカが不機嫌そうに呟いた。
アスカンタ城へ向かう途中、夜もだいぶ更けてきたが、
もう少しで辿り着けるくらいの距離で。
そんな中、トロデがどうしても、


『わしの可愛いミーティアをこんな夜中に歩かせるなんて以ての外じゃ!!』


と言うから、残りのメンバーも、仕方なく野宿を了解した。

「兄貴ー。そっちにいい洞穴があったっすよ!」
「あ、今行くよ」

ヤンガスの声に、少年はそちらへ向かおうとした……が。

  ぐいっ

誰かに腕を掴まれて、前に進めなかった。

「ねぇ、ちょっと頼まれてくれない?」
「え…」

腕を掴んだのは、ゼシカだった。
彼女はなぜかとてもニヤニヤしていて、少年は嫌な予感がした。

「な、なに…?」
「ちょっと、ククールとそっちの河原で水汲んできてくれない?」
「水?いいよ」
「時間、かかってもいいからね。全然かまわないからゆっくりしてきなさい!」

少年はゼシカの言い回しに首を傾げた。
しかし、少年の少し後ろにいたククールには、意味が理解できたらしい。

「行ってこようぜ」
「あ、うん…」
「ゼシカ、さんきゅ」

六個の水筒を馬車から取り出し、
二人は少し離れたところにある河原へ向かった。

「…ククール。この前の話だけど…」
「ん?ああ、あれな」

水筒に水を汲みながら、ククールはぶっきらぼうに答えた。

「なに、その言い方は…僕がどれだけ―――」
「(しっ…ちょっと黙ってろ)」

口に手を当てられ、静かにする。
そして、ククールは持っていた弓を構えて、少し離れた木に矢を放った。

「―――!」


   ガサガサガサッ


赤い髪の毛をした少女が走り去っていくのが見えた。…ゼシカだ。

「やっぱり」

ククールは少年の隣に戻ってきた。

「ゼシカのことだから絶対に着いてくると思った。

彼女は自分の髪型を理解してないのかね。
木の端からあの素敵なしっぽが見えていたよ」
そんなククールの言い回しに、少年はプッと吹き出してしまった。

「…やっと笑った」
「えっ?」
「今日、あんまり笑ってなかっただろ?トロデ王も心配してたぞ」
「あ…」

言われて、今日一日を振り返ってみると、
あまり笑っていなかったような気がした。
一日中、この間の夜のことを考えていた。

「―――ナット」

名前を呼ばれて、ナットが川から顔を上げるとふいに…
視界がククールの顔でいっぱいになった。
そして、唇は、ククールの唇で塞がれていた。

「…あ……」
「お前は本気って思ってないだろうが、お前のこと、本気で好きなんだぜ」
「…うそ。だって、僕、男だよ…?」
「そんなのオレが気にすると思うか?」
「でも…」
「体で教えないと駄目か」

すっと伸びてきた右手は、ナットの腰に回り、左手は体を撫で回し始めた。

「ククール…!」
「オレが、どれだけお前のこと思ってるか、ちゃんと教えてやる」
「……」

ナットの体が押し倒され、顔と顔が近づいて……

「…ナット!ククール!どこに行ったんじゃ!!」
「……ちっ。邪魔が入った…」

額にキスを落として、さっさと水筒に水を入れ始めた。

「さ、戻るか」
「うん…」

仲間のいる洞穴のほうへ向かう。
二人とも、少し気まずいのか、会話もなく歩いていた。
近くになったところでゼシカがククールの近くへ来て、

「(ごめんなさいね。王様が、二人がいないことに気づいちゃってね)」
「(ま、仕方ないさ。こんな時もある)」

ククールは肩をすくめた。ナットは未だ釈然としない表情だった。








「ナット、ちょっと外に出ないか?」

アスカンタ城。
昨晩、キラの願いを受け、おばあさんの家に向かう前に
一行は城下町の宿屋に泊まっていた。
そんな中、ナットはヤンガスに付き合わされ、
酒を片手に談笑していた。

「いいけど…?」

ククールにそう声をかけられ、ナットは周りを見回しながら答えた。
気が付くと、先程まで一緒に飲んでいたはずのヤンガスの姿がなかった。
ヤンガスもトロデも既に床についていた。
勿論ゼシカは「お肌に悪いから」とさっさと一人で寝てしまっている。

「じゃ、行こうか」

宿屋を出て広場を抜け、井戸の方へ向かう。
ククールは井戸の縁に腰をかけ、ナットをジッと見た。

「…さあ、今日こそゆっくり話せるな」
「ククール……」
「そろそろ理解できたか?オレの気持ち」

視線で隣に座るように合図をしてきたので、ナットはおとなしく従い、同じく井戸の縁に座った。

「まだ、よくわかんないよ…どうして僕なのか」
「そうだなぁ。ま、一目惚れってやつか?」
「案外適当だね」
「そっか?結構重要だと思うけどな、オレは」

よっ、と立ち上がり、ナットの目の前に立ち、顔を近づけた。

「――――」

ナットの予想通り、ククールに唇を奪われる。
しかし、予想と違ったのは、この間のものより、とても長かった。

「……っぁ……」

スッとのびてきた手は、服の中に手が入ってきた。

「やぁ…ククール……」
「こんな野外でなんか、結構緊張しないか…?」
「――っは…ん……」
「ナット…」

井戸からおろされ、石畳の上に押し倒された。
ほんの少し出ている素肌が石に触れ、ひんやりとした感覚が伝わってきた。

「悪い…そんな顔されると……止めらんなくなる…」
「ククール…っ……」

愛撫されている体がだんだん火照ってきた。

「―――な、んか…ヘンになっちゃ、うよぉ……」
「ヘンになっちまえ。オレが許す…」
「―――――――」







「え?ナットが起きてこない?」

翌朝、ヤンガスが慌てて飛び出てきたかと思えば…
ゼシカはナットのベッドへと近づく。

「どうしたの」
「…あ、ゼシカ…ご、ごめん……」
「なんだ、起きてるんじゃない」
「うん…そうなんだけど…」

そこにククールがやってきた。
すると、ナットの顔が一気に赤く染まり、布団の中に隠れてしまった。

「――ククール、あんたまさか」
「さあ、何のことかな」
「ひょっとしなくても、ナット、腰が痛いんじゃないの?」

返事がない。イコールYESということか。

「アンタらねぇ…今が、急ぎの旅の途中だってわかってるの?」
「おお怖い。そんな怖い顔してると美人が台無しだぜ」
「ふざけないで。…ま、今日は仕方がないわ」

もう一晩泊まりましょう。そう言い残してベッドから離れていった。

「……馬鹿」
「馬鹿とはなんだ。昨日はあんなにかわいかったの―――」


    がんっ


鞘に入れたままの剣でとりあえず頭を殴っておいた。


「……ククールの、馬鹿……」




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ひとまず完結っぽいSSです!(マテ;)
ぽいってなんでしょうね?
と言うわけで、日記で書いていたクク主SSでやんす。
やっぱり日記で書くと繋がりがおかしいですね…(T_T)
ちゃんとした話も書きたいです。
何はともあれ、祝DQ8でがす。
クク主万歳〜マ○○クなんかに負けないぞ〜
そのうち同盟とか作ってたりして(笑)


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