「ナットナット!」
ある日突然ククールが、お正月なる言葉をいいだした。
ボクはもちろん、ゼシカやヤンガスも知らないらしい。
何なんだろう、そのオショウガツっていうのは…
「お正月ってのはなぁ」
まるで、先生のように、
ボクたちにその「オショウガツ」ってやつの説明をし始めた。
「一年が始まる日に、みんなで集まって「今年も一年いいことがありますように」って祈る日らしいぜ」
「へー…教会の連中はそんなことまでするんでがすね。」
「そんな訳ないだろ。何かの文献で見たんだ」
「で?何でそんな話を持ち出したの」
ゼシカが少し呆れた様子で言った。
そんな問いに、ニマッと笑って一言こういった。
「だから、新しい年をみんなで祝おうぜってことさ」
☆新しい年に☆
結局この日は、そのまま野宿をして、そのお正月を祝っていた。
今日が一年の始まりなのかはよくわからないけど、
その辺はきっとボクよりククールの方がよく知ってると思う。
いくら考えても、やっぱりボクにはよくわからなかった。
でも、判らなくても、みんなが楽しそうならいいかな。
「ナット、飲んでんのか」
すっかり酔っているククールが、ボクのところに酒を片手にやってきた。
ひょっとしたら。
この人は酒飲みのために口から出任せでも言ったんじゃないかってちらっと頭を過ったが、
すぐに脳が否定してくれた。
うん、ククールのこと疑いたくないしね。
「飲んでるよ」
「まだ飲み方が足らねぇな。折角新たな年が始まったんだから、もっとパーッと行こうぜ」
「わっ…ククール、お酒臭いっ」
「お前も飲めば気にならねぇよ」
ククールは、ボクの隣に腰をおろす。
少し離れた焚き火のところでは、仲間たちの笑い声が響いていた。
「何でこんなところにいたんだよ」
ククールはボクが少し離れたところにいたのが気になったらしい。
ボクは少し笑った。
そんなに、ボクのこと気にしてくれてるなんて嬉しいって思うあたり、
ボクも結構酔っぱらってるんじゃないかと思う。
「お正月って何だろうって考えたくて、ちょっと来てみたんだ」
「そんなくだらないこと考えてたのか?」
「くだらない?だって、今まで知らなかったことなんだから」
「…いいんだよ。理由はともあれ、宴会が出来るんだから」
やっぱりそのつもりだったのかな…
ボクが少し残念がる直前に、ククールは口を開く。
「……チェルスが死んで、メディばあさんが死んで、今度は法皇様だ。あいつらもすっかり沈んでたからな」
こんな風に盛り上がって発散しておかないと、この先差し支えるだろ?
って、彼は笑った。
ああ、やっぱりククールはククールだった。
「ククールはやさしいね」
「オレの優しさはお前限定だぜ」
こんなときでも、茶化してくる彼は、本当にいいやつだと思う
…優しいし、気が利くし、格好いいし…
「どうした?」
黙ってしまったボクの顔を覗き込んでくる。
そんなククールの頬に、ちゅっ、とキスをした。
「…誘ってんのかぁ?」
「新年だから、特別」
「止まんなくなるぜ」
「こんな外で?みんなも起きてるのに」
「……生殺し、かよ」
「さあ?」
そんなふうに返すと、彼はおもむろに立ち上がって、
みんなの方を向いて弓を構えた。
「……」「わぁ!何すんだよ」
何をしたいのか察知してしまい、慌てて止める。
「何って、ラリホーアロー」
「オーディーンボウなんかで射ったら、陛下や姫は死んじゃうよ!」
「ザオリクしてやるよ」
「そんなことしなくても」
と、口にした瞬間、抱き締められて、キスをされた。
地面に倒れる直前に見たのは、すっかり熟睡モードに入っていた仲間たちの姿だった。
(あ、また睡眠薬盛ったのかな…)
そして、目の前は真っ赤に染まった
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