「敵軍の増援が現れました!!」
「やられたのか……?───5121小隊は直ちに撤退する」

オペレーターの声が、戦場に響く。それに続き、善行の指示が多目的結晶体を通して伝えられた。
士魂号・スカウト・友軍機は踵を返して撤退し始めた。


バァァァンッ!!!


次の瞬間、物凄く大きな爆音が響いた。そしてそれと同時に、瀬戸口の声も聞こえてきた。その声はとても悲痛で・・・

「二番機、スキュラの攻撃により大破しました・・・!パイロットの生存は不明です」
「────?!」

速水は戦場を見る。しかし、砂煙に巻かれてか、滝川陽平の姿は確認出来ない。

「厚志、我らも撤退するぞ」
「待って!滝川、滝川が……!!」
「命を落とすぞ?!」

後ろを振り返り、相方の芝村舞をじっと見た。

「……ごめん。それでも僕は……」
「良い。お前のそんなところがお前の最も悪く……最も良いところだからな」


カチャカチャカチャ


舞は滝川の位置を算定する。

「北西の方向45°に生命反応がある。おそらく滝川であろう」
「わかった」

複座型を言われた方向へと向かわせる。

「あっちゃん、まいちゃん!何をしてるのよ?!はやくにげなきゃ、めーなの!!」

音声のみの通信機から、ののみの声が聞こえてきた。どうやらこの機体の映像通信も壊れているらしい。

「東原、ごめん。僕は滝川の救出に向かいます」

一言、たった一言だけを言って、そのまま通信を切った。そのまま走っていくと、ようやく破壊された二番機の残骸が見えてきた。

「……周りにスキュラが二体、きたかぜゾンビが五体、ミノタウロスが四体いるぞ。全てミサイルの範囲内だ」
「ミサイル弾丸補充。……一発で仕留められるかい?」

その言葉に舞は不敵に笑って頷く。

「私を誰だと思っている」
「……いい返事だね。まかせるよ」

神経を研ぎ澄まして、狙いを定め ―――― 発射した。

「全弾命中。スキュラ一体のみ残して、全て撃破した」

士魂号の姿を確認したスキュラは、攻撃を仕掛けようとするが……


ザシュッッ!!


スキュラの背後から、刀が出てくる。超高度大太刀、壬生屋未央の一番機の武器だ。

「およばずながら、私もお手伝いさせていただきました!」
「壬生屋さん、ありがとう」
「敵は全滅したようだ。……厚志、行ってやれ」

舞の言葉に強く頷き、速水は士魂号を降りて、滝川を捜す。


「滝川…………滝川!!」
「は……やみ……?」

近くから滝川の声がした。その声を手がかりに滝川の姿をとうとう発見した。

「たき……陽平!」

滝川は頭から大量の血を流し、ウォードレスもすっかりボロボロになっていた。

「へへっ……よかった、死ぬ前に、お前に会えて……」
「死ぬだなんて…!そんなこと言わないでよ!!」

滝川は頭を軽く振る。

「自分のことは、自分が一番わかるんだ………俺は、もう駄目だって、な……」
「お願い、喋らないで!全部敵は倒したから、もうすぐみんなが助けに……」
「いいんだ……な、あ、速水………」

最後の力を振り絞り、滝川は速水の右手を握った。あまり力が入らないらしく、その手の圧力は全くなかった。
慌ててその手を支えるために、速水は左手で手を握った。

「なに……?」
「俺さ、お前のこと、すっと好きだったんだ……」
「知ってるよ……」
「初めて見た、時は、こんなのが、…士魂号に乗れるのか、とか思ったけどよ…実際、おれなん、か、足元にも及ばない、ほど強くって…」
「お願い……僕を置いて行かないで……僕を…独りにしないで……」

涙が溢れ出してきた。速水の涙が、滝川の顔に落ちる。突然の冷たい感覚に、滝川は速水の顔を見て手を伸ばす。

「泣く、なよ……俺ま、で悲しく、なっちまう、だろ……」

指で速水の涙を拭い、笑いかける。

「最後に、さ……キス、していいか……?」
「え……?」

突然の頼みに、速水は目を丸くする。

「いっつもさ、お前はガード固くってさ……瀬戸口師匠がすっげー羨ましかったこともあったんだぜ?…な、頼む、よ………」

速水は強く、頷いた。

「悪い、な……」
「いいんだよ……!だって、僕も陽平のこと、好きだもん……だから、僕を置いていかないでよ………」

滝川は最後の力を振り絞るように起き、速水の唇に己の唇を重ねる。
しかし、突然滝川の体が重く寄りかかってきた。

「……」
「よ、うへい……?」

目を開けたとき、滝川は既に息もしていなかった。

「う、そ……やだよっ?!陽平、目を開けてよぉ!!!」

しかし、速水の呼びかけは虚しく響くのみだった。いつの間にか、舞と壬生屋も、二人の元へとやってきていた。

「お願い!!僕を独りにしないでぇっ!!!お願いだよ!!!」
「速水さん、落ち着いてくださいっ!」

壬生屋は速水に声をかける。しかし速水はそのまましばらく泣きながら、滝川の手を握ったまま、その場を動こうとしなかった。
スカウトの二人や、指揮車が到着して、ようやく周りに人がいることに気がつく。速水は滝川の遺体と共に、指揮車に乗る。
今の彼の精神状態では、士魂号は操れないであろうと判断した結果だった。

「ううっ……陽平……」
「あっちゃん。ないちゃ、めーなの。ようちゃんも、あっちゃんのないてるすがたはみたくないのよ?だから、めーなの……」

速水の横では、ののみが必死に励ましている。善行は、それを黙ってみているしかなかった。



「ほらっ……」

次の日の滝川の葬式後、本田は速水に勲章を手渡す。

「先生、これは……」
「そうだ。傷ついた獅子の紋章……お前に渡すのが、一番いいと思ってよ。受け取ってやれ、な?」
「はい……」

傷ついた獅子の紋章を握りしめて、速水は頷いた。それを見て、本田は速水の元から離れる。
その日一日、速水に話しかけるものは、他はいなかった。かける言葉がない、そういう状態なのかもしれない。
今の彼には休養が必要なのだ。精神の休養が………


「大丈夫でしょうか、速水さん……」
「どうやろね……かなり、ヤバイ状態とちゃうか?」

次の日、速水は学校を休んだ。おそらく、心にかなり深い傷を負っているとみた。
今日は士魂号・指揮車の故障状態がひどいため、休校で、全員が修理に当たっている。

「………」

二人の会話をききながら、舞はハンガーを離れてプレハブ校舎の屋上へと向かった。


「やはりここにいたか、厚志」

プレハブ校舎の屋上には、速水がいた。

「……舞、か。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない。そなた、仕事をサボって何をしておる」
「もう、生きていても、しょうがないかなって思って……」
「厚志!!」


パシンッ!


舞は思い切り平手打ちを食らわしていた。突然のことに、速水は眼を大きく開き、舞を見た。

「何を言うんだ!生きていても仕方がない?!何故だ!そなた、滝川の仇は取りたくないのか?!!
 何故、滝川の志を継ごうとしない!奴は、幻獣と戦って死んだ!ならば我らは、幻獣を倒そうとするのが道理ではないのか?!厚志!!」
「舞……」
「……奴が死んで、悲しんでいるのはそなただけでない。全員が……私も含めた全員が悲しんでいる。
 だから、生きるのだ。仕事をするのだ。それが、奴の為、奴の仇を取る為に我らが出来る事だ」

舞の瞳からは、涙が溢れ出していた。滅多に感情を出さない舞には珍しかった。

「……うん。ありがとう、舞。僕も、頑張らなくちゃね。陽平の仇を取る為に……」
「そうだ。それでいい」

今は何も考えない方がいい。そういって舞は階段を下りていった。

「陽平……僕、頑張るよ……君の為に……」


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