マナの木の奥でドラゴンを倒すやいなや、ティアラと瑠璃は見知らぬ場所へと来ていた。
二人は今までの経験から、そこで何が起こるかは薄々感じ取っていた。


「とうとうここまで来たね……」


ティアラは隣にいる瑠璃を見た。瑠璃は彼女を見て優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。お前のことは絶対に俺が護ってやるから」


そっと肩を抱く。ティアラも彼の胸に頭を凭れさせる。


「あれぇ?真珠ちゃんはいいの?」

「相変わらず、細かいところをつくな。…普段はぽやーっとしてるくせに」


核に当たらないようにしながら、瑠璃の胸板を軽く叩いた。


「……いいですよ。どうせ私はぽやーっとしてますよ」

「冗談だ。…俺にとって真珠は妹みたいなもんだ。それに、あいつは自分で自分のことを守れる。
珠魅最強の騎士・レディパールでもあるからな―――」


私は光、そして闇。


瑠璃の言葉が言い終わると同時に、突然、二人の頭の中に声が響いてきた。


「なっ!!」


あなたが戦ってきた闇の全て
それは私の半身。



「何のことだ!」


瑠璃は周りを見回した。しかし、誰もいない。


「マナの木……なの?」


私は永遠の創造、
そして永遠の破壊、そして再生。
私は愛。



いつしか二人は『マナ』の言葉をジッと聞いていた。


私の全てが正義ではない。
私の全てが清らかではない。
それらは私の半身の姿。
私の半身を求める者たちが、
正義の剣で人を傷つけ、
人の自由を奪い、私の真実を隠す。



『マナ』の声が大きく響く。


あなたに、私の闇の姿を見せます。
あなたはそれに打ち勝ち、
英雄になりなさい。
私を求める者たちに、
道を示すために。



パァァッと光が眼前に広がったかと思うと、『マナの半身』が二人の目の前に立っていた


「ワタシニカチナサイ、てぃあら。ジブンジシンノタメニ」


腕を振り上げて、ティアラに殴りかかってきた。


「あぶないっ!」


間一髪のところで、瑠璃がティアラを抱きかかえて飛び上がった。


「何ボーっとしてるんだ!」

「ご、ごめんなさい」


地面に降り立つと、ティアラ愛用の槍を構え、『マナの半身』に向き直った。


「……これを、最後の戦いにしような」

「うん」


二人は同時に踏み込んで『マナの半身』に飛びかかる。

しかし、一筋縄ではいかず、ティアラも、瑠璃も相当な傷を作っていた。

しかしそれでも彼女は諦めずに攻撃を続ける。今諦めたら、彼女の大切なものを全て失ってしまうように思えたから。

マイホームで自分の帰りを待っている兄のルウと弟子のバドとコロナ、

煌めきの都市で待つ真珠姫やその他の珠魅達、今までに出会ったたくさんの人々、


そして……今、自分の隣にいる大切な恋人。



「―――絶対になくさせないんだから!」



槍を振り上げ、『マナの半身』に最後の一発を与えた。




「…ソウダ、ソレデイイノダてぃあら―――」


マナの葉にくるまっていくそれを見つめる二人。やがて、『マナの半身』の躯が光を放ち、消滅した。

安心したのか、『マナの半身』が消滅したのを見たティアラの躰は前のめりに倒れていった。


「ティアラ!!」


それを瑠璃が慌てて抱き留めた。


「えへへ…いま、名前呼んでくれたよね…久しぶりに聴いたな……」

「すまない、俺がついていながら……」


最後の力を振り絞って、右手を上げ彼の頬のところに持っていく。


「だいじょーぶ。ちょっと疲れただけだから、ここで少し休めば――って、あれ何かな?」


フワフワと何かが落ちてくる。瑠璃はティアラを護るように身構えた。それが地上に降り立ち姿を見せる。


「僕は草人。マナの木を直しに来たよ」


剣にかけていた手を下ろし、緊張を解く。


「よし、ここはもう大丈夫だろ。……いくか」


おいていかれるのか…と思っていたティアラは、スッと自分の躰が軽くなるのを感じた。

よく見ると、瑠璃が自分のことを抱き上げていた。


「えっ!じ、自分で歩けるよぉ!」


ジタバタと腕の中で暴れる。


「おい、動くなっ。落ちるだろ!……いいから、おとなしくしてろ。俺がこうしたいと思ったからやってんだ」


瑠璃も顔を真っ赤にさせていた。それを見たティアラは、クスッと笑って、おとなしくした。




「師匠、お帰りなさいーって、すごい……」


二人が戻ってきたとき、丁度ルウは出かけており、コロナは自室へ行っており、玄関口のところにいたのはバドだけだった。

バドは抱きかかえられているティアラを見て、感嘆の溜息を漏らした。


「感心してるな!とりあえずこいつをベットに運ぶ。お前は薬草とお湯の準備しておけ」


マイホーム近くなった頃から、ティアラは意識を失い、ひどい高熱に魘されていた。

どうやら傷口から発熱したらしい。瑠璃はそのまま二階へと上がっていった。


「どーしたのーバドー?」

「大変だ!師匠が熱出してる。コロナ、お湯わかして!」

「あ、うんっ!」




「う、うん……」

「気がついたか?」


目の前に突然現れた三つの顔。瑠璃とバドとコロナだ。


「師匠!無理しないでくださいよ!」

「そうです」


バドとコロナは泣きそうな顔をしていた。というか、きっと今まで泣いていたのであろう。目の周りが真っ赤に染め上がっている。


「……ごめんね」

「気、使うな。いいから、もう少し寝てろ」

「うん」


ティアラの額にそっと口づけする。ティアラはそのまま目を閉じ、規則的な寝息を立て始める。


「後は任せたぞ、チビ共」

「なんでだよ!何で師匠のそばについていてやんないんだ?!」


バドは母形見のフライパンを振り回して瑠璃に問いつめる。


「……ティアラが起きたら、ジンの曜日に【煌めきの都市】に来るよう伝えてくれ。あと、ルウと一緒に来るようにって――」


そう一言言い残して、瑠璃はマイホームを出ていった。




「………ラ、ティアラ!」


誰かが呼ぶ声がする。ティアラはその声に気づき、目を開けた。


「う、ん…おにい、ちゃん……?」

「ティアラ!…よかった。ちょっと奈落に行って帰ってくると、お前が熱出して寝てるし、どーしようかと思ったんだぜ?」


声の主は、ルウだった。


「あれ……瑠璃君は…?」


周りを見回し、瑠璃の姿がないことに気づく。


「あいつなら、俺が帰ったときはすでにいなかったぜ…って、どこに行くんだ、バド」


瑠璃の名前が出てきたとき、コソコソと逃げ出そうとしているバドをルウが制止する。


「瑠璃さんなら、ティアラさんに伝言を残して帰られましたよ?」

「バカ!何で言っちゃうんだよ!」

「黙ってるわけにもいかないでしょ?!」


コロナの怒鳴り声に、大人しくなるバド。やはりコロナには逆らえないらしい。

「それで、瑠璃はなんていってたんだ?」

「それが…ティアラさんとルウさんの二人で、ジンの曜日に【煌めきの都市】に来てほしい、と。
一言言ってました。ちなみに今日はウィンディの曜日です」


ジンの曜日……


「レディパールがいる日だな……」

「何だろう、瑠璃君」

「とりあえず、師匠はもう少し寝ていてください!まだ完全に熱が下がったわけじゃないんですから」




「ルウおにいさま、ティアラおねえさま!」

「「真珠姫?」」


二人が煌めきの都市に入ると、真珠姫が駆け寄ってきた。


「驚いていますね。…今日は、上に行くまで真珠でいってきなさいって。あとは大切な話があるからって――」


二人の手を引いて、上への道のりを小走りで走っていく。道行く先々で珠魅達から笑い声と歓声が上がった。


「それでは、私は――」


真珠姫の体が光ったかと思うと、次の瞬間にはレディパールへと変貌していた。


「レディパール、ただいま戻りました」


扉がギィィと開けられた。そこには蛍姫・ディアナのほかに、普段はここにはいない瑠璃やエメロード、ルーベンスまでいた。


「ようこそ。ティアラ、ルウ」

「?何で俺の名前を?」


蛍姫とルウは初対面だったはずだ。


「ティアラから貴方のことは存分に聞いております。……それでは」


部屋の隅で壁にもたれかかっていた瑠璃を蛍姫は見た。


「瑠璃、貴方のお話とは、いったいどのようなことで…」

「まずはこれを見てくれ」


瑠璃はそう言うと、自分の核に手を触れ、目を閉じて何かを念じ始めた。

どうやら、核と核を共鳴させようとしているらしい。しかし、その場にいた珠魅の誰の核にも反応しなかったのだが…。


「えっ……」


ティアラの胸のあたりが蒼く光っていた。


「見ての通りだ。…ティアラは、珠魅だ」


周りがざわつく。ティアラ自身も蒼く光っているところに手を当ててみる。

皮膚の下に埋もれているらしいが、確かに固いものがあった。

このあたりを意識して押してみたこともなかったので、今までこんなものがあるとは知らなかった。

ティアラもまた、目を閉じて念じる。すると……


「あ…核が……」


光っているところに縦に亀裂が入ったかと思うと、そのまま核が少しずつ盛りだしてきた。

その宝石は、月長石【ムーンストーン】だった。


「ティアラ……」

「お兄ちゃん……」


ルウは驚いてティアラを見た。


「……」


瑠璃は何も言わず、再び何かを念じ始めた。すると今度は、ルウに共鳴が始まった。

ティアラと同じく、核が出てきた。宝石は日長石【サンストーン】だ。


「おそらく、過去にこの煌めきの都市で起こった内乱の時に、二人を護るために核を隠し、必要以上の記憶を消去されていたんだと思う」

「そうですか…」


蛍姫はレディパールを見て頷く。


「ティアラ、ルウ。お前達二人をこれから珠魅として我らは受け入れよう」

「私たちが、珠魅――」





その後、二人は無言でマイホームまで帰った。瑠璃やパールが送っていくと申し出たが、断った。

マイホームにつくと、バドとコロナが玄関前に立っていた。


「お帰り、師匠!」

「お帰りなさい……って、それは……」


コロナは二人の胸に輝く核を見つけた。


「あとで話すよ。とりあえず、家の中に入ろう」

「―――ティアラ!」


家に入ろうとしたティアラを誰かが呼び止める声がした。その場にいた全員が後ろを振り向く。


「瑠璃!」


そこに立っていたのは瑠璃だった。どうやら二人を追いかけてきたらしい。


「ティアラ、俺お前に言いたいことが……!!」


そう言った瑠璃は鋭い視線をバドとコロナに向けた。二人はそそくさと家の中に入っていった。


「俺はいいのか?」

「いいさ。聞いていてもらわないと困るからな」


その言葉を聞き、ルウは何を言いに来たのかがわかった。


「ティアラ……俺と、一緒に来てくれないか?」

「えっ?今更言わなくたって、頼まれればどこにだってついてくよ?」


瑠璃とルウは同じリアクションでずっこけた。何が起こったか全く理解できていないティアラにルウは言った。


「あ、あのなぁティアラ…瑠璃はそう言う意味じゃなくて、『結婚してくれ』っていったんだよ」

「えっ…ええええ!!?」


一気に顔を真っ赤にさせた。


「―――駄目か?」

「………い、いいよ」



バーン!!


突然家の扉が開き、中からクラッカーを鳴らしてバドとコロナが出てきた。


「おめでとー師匠!」

「準備がいいな、二人とも。…いやー、俺も嬉しいな。瑠璃みたいな弟が出来て」

「で?どこで暮らすんですか?」


いきなりの祝福に、瑠璃も顔を真っ赤にさせた。


「ここで暮らせば?部屋、余るだろうし」

「どういうコトだ?」

「俺がいなくなるんさ。俺、ちょっと世界を回ろうかな、って思っててさ」


ルウは瑠璃とティアラの肩を軽く叩き、そう言った。


「いっちゃうの?」


心配そうにルウを見たティアラに対して、軽く頷いた。


「大丈夫。定期的に帰ってくる予定」

「師匠!俺もついていっていいですか?!」


バドが目をキラキラ光らせてルウの足下に近づいてきた。


「おう、いいぞ!」

「それじゃ、私はティアラさんと瑠璃さんのお邪魔にならない程度でここにいますか。
二人まで旅に出たとき、留守番役が必要でしょうから」


コロナはすっかりマイホームでグータラと暮らしているのが気に入ったらしい。暇ならいくらでもつぶせるといったところだろう。


「よし、決定!な、いいだろ瑠璃」


瑠璃は呆れたように溜息を吐き、言った。


「いいだろもなにも、決定してから言ったら否定のしようがないだろ?…俺はかまわないぜ」

「じゃ、引っ越しの準備だ!バド、お前は俺の分の旅支度をしておけ!」

「わかりました!!」




「意外と荷物少ないんだ」

「元々、旅ばかりしてたからな」

「瑠璃くん、ルウおにいさま……?」


荷物の支度をしていると、真珠姫が二人の元へやって来た。


「いっちゃうんだね、瑠璃くん」

「悪いな、真珠…。だけど、《お前》は俺なんかより、ずっと強いから。――レディパール、この都市と真珠を頼む」

「言われなくとも。だが、この娘が寂しがるから、たまには三人揃って顔を見せに来い」

「ああ」




「お帰りなさい!」

「師匠、準備できました!」


荷物を抱えたバドが飛び出してきた。


「そっか。じゃ、いくか」

「お兄ちゃん」


それを受け取り、直ぐに家を出ようとしたルウを、ティアラが呼び止めた。


「もう、いっちゃうの?今夜ぐらいは残ってもいいじゃない」

「…それもそうだな」


そのあと、祝いと別れの夕食会を五人であげた。結婚する二人への祝いと、旅立つ二人への祝福の為、コロナが精一杯に料理を作った。





朝、日が昇る前にルウは家を出た。もちろんバドも一緒に。

一度、マイホームを振り返り、口元を少しゆるめて笑った。


「…幸せにな」




「…ん…あれ……?」


朝、目が覚め、兄がいないことに気がついたティアラは、周りを見回した。

どうやら昨日は、ベッドには行かず、机で寝てしまったらしい。瑠璃やコロナの顔が確認できた。

「行っちゃったんだね。……がんばってね、お兄ちゃん」





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