「それじゃあ、蛍姫のところに行ってくるね」


煌めきの都市の一室。

ティアラは瑠璃にそう告げた。


「ああ。戻ってきたら出掛けよう」


瑠璃も返す。

少女は笑顔で手を振ると、小走りで上へ向かった。

ふと、その途中にティアラは立ち止まって、周りを見回した。

煌めきの都市には、珠魅以外の種族はいない。

ここに自分がいられるのも、

蛍姫やレディ・パール、さらにはルーベンスやディアナの計らいによるものだった。

彼ら珠魅の危機を救った英雄として、ティアラはここに立ち入ることが許されているのだ。

―――珠魅とは己の核さえ無事ならば、いくらでも生き長らえる種族である。

そんな彼らを見ながら、ティアラの心には不安が広がっていた。


(瑠璃くんも……)


そう。

彼女の不安は、恋人の瑠璃のことだった。

人間であるティアラには寿命がある。

それが彼女が、今一番気にしていることだった。


「――やめよ。早く蛍姫のところにいかなきゃ」


気を取り直して、最上階の玉石の座へ向かう。


「……あれ?」


階段をのぼったところで、ティアラは足を止めた。

そこはダイアモンドの部屋の前だった。


「色が…違う」


つい先日までは綺麗な白のダイアモンドが入り口に飾ってあったが、今の色はどうだ。

深い、深い黒。

あんなに鮮やかだったのに。


「何か、あったのかな…?」


様子がおかしい。

少女はダイアモンドの部屋に足を踏み入れた。


「ゴーレム、いない」


いつもこのダイアモンドを守るマシンゴーレムの姿がない。

予想通り、台座には黒ダイアが置いてあった。

少女は恐る恐る近寄る。

そして、その黒ダイアを手に取った瞬間――――


「――――!?」


黒ダイアから強い光が溢れだし―――ティアラの意識はそこで途絶えた。







どがぁぁぁぁぁんっっ!


「!?」


瑠璃は突然の爆破音と、黒い閃光に胸騒ぎを覚えた。


「上からか…?」


サフォーの門を通り、上へと向かった。

するとダイアモンドの部屋の前には、既に何人かの珠魅が集まっていた。


「ルーベンス!何があったんだ!」

「わからないっ!この黒い霧が邪魔をしていて何も見えないんだ」

「……なにが起こった」


レディパールの声。


「レディパール。ティアラは…?確か玉石の座へ行ったはずだ」

「いや?ティアラは来ていない」

「――――っ」

「瑠璃、どこへ行くんだ!」


瑠璃は考える間もなく霧の立ちこめる部屋へ入っていった。

ルーベンスの制止の声が聞こえたが、あえて無視した。

そんなこと気にしている暇はない。


「ティアラ!」


部屋の中で倒れているティアラを見つけた瑠璃は、気を失っている彼女を抱き上げる。


その直後、黒い霧も晴れ、ルーベンス、パールが入ってくる。


「ティアラ、ティアラ…」


軽く揺すってみるが、反応がない。


「……ん?」


その時、彼女の胸元になにか違和感を感じた。


「これは…」


瑠璃が手を伸ばし、ソレに触れようとした瞬間―――


ばんっっっ!!


「くっ!」


突然ティアラの体が起き上がり、そのまま瑠璃を突き飛ばした。

そして、珠魅たちをかきわけて、外へ出ていった。


「どうした」

「アイツの胸に…核が……黒ダイアの、核が」

「「黒ダイア!?」」


ルーベンスとパールの声が重なった。

パールはそう聞くや否や、ティアラの後を追って駆け出した。


「黒ダイアって―――」

「今はそれを説明してる暇はない。行くぞ」


瑠璃の問い掛けは、ルーベンスに止められた。

彼はいつもにまして、厳しい顔つきをしたまま走りだした。

瑠璃も遅れまいと慌てて付いていく。





「…来たわね」


ディアナは玉石の座の前にいた。

彼女にはわかっていたのだ。

あの黒い光が見えた瞬間、誰の仕業か見当がついていた。


<あら、ディアナ。お出迎えご苦労さま>


ティアラの姿をしたソレは親しみをこめるかのように言った。


「ふざけないで」


それをピシャリとはねのける。


<久しぶりにあった同郷の友に対して、ひどいんじゃない?>

「詭弁を。そんな風に思ってないくせに」

<そんなことはどうでもいいの。そこを通しなさい>

「断る。貴女を通すわけにはいかないわ、アダム」

<私はティアラよ>


アダムと呼ばれた"ティアラ"は軽く腕をあげ、その手から弓があらわれた。


<これがなんだか覚えていて?>

「それは…アダマンボウ…!」

「ディアナ!」


"ティアラ"の背後に、レディパールの姿が見える。


<無駄なこと。貴女が私に勝てるとお思い?>

「やってみなければわからんだろう」

<…やってごらん?その代わり、この少女は道連れになるわ>

「――――!」


アダムはティアラの体を乗っ取っている。

今の状態で、アダムを傷つけようとすれば、間違いなくティアラの体を傷つけることになってしまう。


<さあ、パール。やってみなさい>

「……」

レディパールは手を出せずにいた。

あの少女は、珠魅の救世主のようなもの。

命の恩人なのだ。

そんな彼女を傷つけることなど、出来るはずはなかった。


<あらあら。またお客さまのようね>


嬉しそうに呟くアダムの視線の先には、後を追ってきた瑠璃とルーベンスがいた。


「ティアラ!」

<ふふっ…貴方ね。この娘の不安の元は>

「―――不安?」

<ええ。この娘の不安が私を受け入れた>


ティアラの顔をしたソレは笑みを浮かべる。


<ロアで出会ったとき、とても嬉しかったわ。これだけ珠魅に近しくて、こんなに私を受け入れたいと思っている人間に会えたのだから>

「なんだと…!?」

<まだわからない?この娘はね、珠魅になりたがっているの>


おもしろそうに、自身の核を撫でる。


<理由は貴方がわかるんじゃなくて?ラピスラズリの騎士さん。それともフローライト。貴女の方が詳しいかもね>


いつのまにか、玉石の座から蛍姫が出てきていた。


「蛍姫!出てきては…!」

「いいえ。彼女は私を傷付けはしません」


蛍姫は、入り口前に立つディアナの隣に並んだ。


<よくおわかりで。最初は本当に殺そうと思っていたけど、やめたわ>

「何が目的なの?」


ディアナのその問いに、アダムは微笑み、


<目的は憎らしい貴女。蛍姫を亡き者にして貴女の築き上げたこの都市を破壊させようと思ったのだけど…気が変わったわ>


アダムは構えていた弓を下ろし、弓の代わりに短剣を取り出す。


<今の貴女たちには、この娘を殺したほうがより復讐にふさわしいわね>


その短剣は、自分の首を切り裂くような形で、ティアラの首に当てられた。



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