「風祭先輩ッ!これ貰ってください!!」


突然のことに、目を大きく見開いたまま硬直してしまった。


「あ、ありがとう……」


お礼の言葉も最後まで聞かず、さっさと走り去ってしまった。呼び止めようにも、咄嗟のことなので言葉が出てこない。


「よかったなぁ」

「ま、松下コーチッ」


いつの間にかいなくなっていた松下が戻ってきた。もちろん一緒に連れて行ってしまった大地も一緒だ。


「今日はバレンタインだからなぁ…いいな、若いって」


異様にしみじみと語っている松下の言葉を聞き、今日がバレンタインだと言うことを思い出した。

昨日までは覚えていたのだが(正確には今日の放課後まで)松下と大地との練習に熱中しすぎてすっかり忘れていたのだ。


「ま、今日はこれぐらいにしておくか。それ持って帰れ」

「は、はい」



「これって、やっぱ本命なのかなぁ…」

「100%そうだろう」


将の問いに、いつも通りの淡々とした口調で答える。


「部活前に、小島と一緒に義理を配っていたからな。俺も貰った」


鞄の中から小さな包みを取り出す。


「うん。ぼくもそれは貰ったけど…」


同じ包みを取り出す。それと先程みゆきから貰った包みを見比べて、大きく溜息を吐く。


「どうしよう……」

「何を悩んでいる」


ジッと将を見下ろす。大地の顔をみて、再び大きな溜息を吐いた。


「悩む必要はない。何なら俺が直接言うか?」

「駄目だよ!……みゆきちゃん、すごく傷つくと思う。とにかく、この話はとりあえず終わりにしよ?」


気がつけば将の家に着いていた。そのまま大地はごく自然に家にあがりこんだ。今日は功がいないので、大地が来ているのだ。


「紅茶でいい?お父さんから、おいしい紅茶貰ったんだ」


慣れた手つきで紅茶を作った。それをカップに注ぎ、部屋まで持っていく。


「はい、どーぞ」

「すまん」


紅茶が目の前に置かれると、大地は鞄の中から先程の包みを取り出した。


「あ、そうだね。食べないと小島さん達に悪いもんね」


将も包みを二個取り出した。もちろん、桜井に貰った方もである。

ガサガサと包みを開けた。


「わー…すっごい―――」


兄弟二人暮らしなので、いつも料理を作っている将は、お菓子もよく作っているため、こういったものを作るのが大変だということを重々理解していた。

それをとりあえず置いて、有希に貰った方を開ける。

入っていたのはハート形と星形のチョコだった。


「おいしそうだね……あれ?不破くんのって……」


自分の方に入っていたのは、ホワイトチョコだったのに、大地の方に入っていたのは黒かった。


「ぼくのと違うね」


大地は一つ口に放り込んだ。


「美味しい?」

「……ああ。お前も食うか?」

「えっ、いいの――――」


言い終わる前に、大地の唇が将の唇と重なっていた。大地の口の中からチョコレートが入ってきた。


「―――?!……苦い…」

「俺が甘いのはあまり好きじゃないといったからだろう」


少しブランデーも入っているのだろう、匂いが口の中に残る。

きっと有希が兄につくるといっていた本命チョコの残りで作ったのであろう。


「あっ!忘れてた…」


苦さが収まる前に、何かを思いだして、将は部屋を飛び出していった。

バタバタと階段を下りる音がする。そして1分もたたないうちに再び階段を上る音が聞こえて、将が部屋へ戻ってきた。


「1分25秒」

「数えてたんだ……(汗)」


笑いながら後ろ手で襖を閉める。


「すっかり忘れてた。これ、不破くんにあげようと思って…」


韓国で買ってきたおみやげを渡した。それと、もう一つ違う袋を取り出した。


「そっちは韓国のおみやげね。で、こっちは……」

「こっちは?」


袋を開けて中を見る。すると、そこには一枚のタオルが入っていた。


「不破くんの、名前を刺繍したんだ」


韓国へ行っている時にやってたから、翼さんとか、藤代くんとかに見つかっちゃったけど、と照れ笑いをしながらいった。


「バレンタインに、不破くんにあげようと前から決めてたんだ」

「…ありがとう」




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