「――――ここが【ディエスト】か」
「思っていたより酷いですねー……」


その地は、草木も生えず、空は暗雲が立ちこめていた。
その上、異臭が鼻につき、不快感を与える。


「……っ」
「大丈夫?コレット……」
「お嬢ちゃんにはこの臭い、厳しいかもしれないな」


目に涙をためて、口を押さえているコレットを、
支えるようにしてゼフェルは歩いていた。


「…ご、ごめんなさい……」
「いいのよ☆あたし達が案内のために無理してついてきてもらってるんだからね」
「無理しないで下さいね」


コレットの道案内で、邪悪な波動が放たれている元凶という建物の見える崖まで来た。
その周りは、毒々しい湖に囲まれており、誰が来ることも拒んでいる様子だった。


「これは酷いな…」
「これ以上近づけないのですが、どうしましょうか…?」
「ふむ。調査はエルンストとレイチェルに任せるしかないが――――」


「―――えっ?!」


ジュリアスの言葉を、メルの叫びが遮った。


「どうしたんだい?」
「何か……来る」


その言葉に、全員が武器を構えた。しかし、メルは首を振る。


「邪悪な気配じゃないみたいだけど……」


ふと、コレットが建物の方に目をやると、何かが飛んで来るのが見えた。
それは三個の光の玉に見えた。
光の玉はコレットの方にゆっくりと飛んできたのだ。


「…?」


ゆっくりとコレットの周りに着いたその玉は、だんだんと形を成していった。


「あ――――」


その光の玉は、彼女の姿に変わった。
ぬいぐるみくらいのサイズで、それぞれ違うコレットの姿だった。
一つは彼女が女王候補生であった頃……
もう一つはあちらの世界を救うために旅をしていた頃……
そして最後は未来のアルカディアへと行っていた頃の姿だった。


「何だこりゃ?!」
「コレットがいっぱい……」
「これは……この宇宙の意志が具現化されたもの、だと思うのですがね〜……」


ルヴァが言うには、宇宙の意志。
つまり聖獣アルフォンシアのコレットとの記憶などが具現化したもの、
ということだと推測しているらしい。
小さいコレットは彼女の元から離れたかと思うと、
ジュリアスとオスカーとゼフェルの肩へと場所を移した。


「すごいかわいいね〜」
「小さいコレットがいっぱいいるよ!」
「……まあ、これの分析は戻ってからですね〜……」
「じゃあ、戻るか――――」


【路】へと戻ろうとする一行。だが、メルが再び振り返った。


「……来る!!」


全員がその声に気づいて振り返ったときには、既に遅かったのだった。
黒い靄が彼らを包み込んでいた。
身体にまとわりつくようなその靄は何かベタベタするようだった。


「何だ!!」
「やだぁっ…気持ち悪いっっ」
「――――!!」


ふと目をあけると、コレットは身体から光を発しているのに気がついた。
それは小さい少女たちの周りにも発せられていることがわかった。


「………」


その黒い靄が去った後、彼らの様子がおかしいことがわかった。
瞳から生気が消えており、虚ろな表情をしていた。
周りを見回したコレットは、彼女以外に、ゼフェル・オスカー・メルは変化がないのに気がつく。


「な、何が起こったんだ?」
「分かりません……」


四人が集まろうとしたとき、オスカーが三人を後ろに押しのけて、剣を構えた。



キィィィンッッ!!



「きゃあ!」
「お嬢ちゃんを連れて、早く行くんだ!!」


オスカーの剣が止めているのは、何とジュリアスの剣だった。


「コレット!」


ゼフェルは彼女の手を引き、【路】の方へ走り始めた。
二人が離れたのを見て、オスカーはジュリアスを剣を弾いた。


「オスカー様、目ェ瞑って!!」


それと同時にメルが目眩ましをする。
その隙をついて、オスカーとメルも逃げ出した。


「ちいさいお嬢ちゃんも落ちないようにな」


オスカーのかけた声に、コクコク、と頷く。


「いい娘だ」


ちら、とジュリアスの方を見た。
肩に乗っている小さいコレット――皇帝との戦いのときの彼女の姿だった――が悔しそうな目をして、
こちらを睨み付けている。
しかし、彼女はフッと振り返り、高笑いをあげた。






「―――っはぁ、はぁ……」
「いったい…どうなってんだ?!」
「…わからない。とりあえず、戻ってみるしかないだろう」


通ってきた【路】を通り、戻っていく。
聖地へと戻り、分析をしていたエルンストとレイチェルに事情を説明した。


「何者かの陰謀であると考えるのが妥当でしょう」


話を聞き終えたエルンストがそう言った。
その黒い靄は、洗脳の一種である。そう説明した。


「あなた方がその黒い靄から逃れられたのは、聖なる光のせいでしょう」


エルンストの話だと、コレットは勿論、小さいコレットと共にいたオスカー・ゼフェルも
その聖なる光の影響を受けることが出来たという話だ。


「僕は?」
「あなたの持っている水晶がおそらく守ってくれたのでしょう」
「じゃあ、どーしてジュリアスはああなっちゃったんだよ」


同じように小さいコレットの一人がついていたジュリアスは、
洗脳されてしまい、彼らに攻撃してきた。


「……思うに、精神が具現化したものなら、あの戦いの頃の精神が具現化した、そう…仮にセカンドと名付けましょうか」


あの聖地を救う戦いのときのコレットの姿をしたソレを『セカンド』と名付けた。


「その頃の彼女の精神なら、悪の影響を受けてしまっていてもおかしくはないと思います」
「それじゃあ、この娘は何てつける……?」


オスカーの問いに、エルンストは『ファースト』と呟く。
そしてゼフェルと共にいるのに『サード』とつけた。


「便宜上、区別する際に使います」
「とりあえずワタシ、女王陛下とロザリア様に事情を話しに行ってキマス!!」
「お願いね…レイチェル」


急いで部屋を出て行った。


「ともかく、俺達でこの状況をどうにかしないと…」


ジュリアスがいない為、自然とまとめ役になったオスカーが言った。


「そうですね。皆さんが出掛けてから、私とレイチェルの方で少し調査してみたのですが」


モニターに何か映像を出した。【ディエスト】の内部構造らしい。


「中心部にある建物…どうやらこの建物の内部から波動が放たれているということです」
「ってことは、そこに行って見なきゃ駄目なんだよね?」
「だろうな」


オスカーは、ファーストを肩から自分の両手へ移動させた。


「この小さいお嬢ちゃんがいれば、邪悪な波動の影響を受けないらしいからな」
「でも…とりあえず、今日は時間も遅いですし……」


おずおずとコレットが言った。
確かに、既に外も真っ暗になっており、今から出掛けるのは危険を伴うであろう。
その意見に、オスカーも賛成し、
今日のところはとりあえず休むこととなった。
部屋は、結局西館の部屋にオスカー・ゼフェル・メル・エルンストが入ることになった。
夕食の準備も出来、全員がテーブルについたとき、レイチェルが帰ってきた。


「ただいま!」
「レイチェル、お帰り。……女王陛下は、何て?」
「うん。あのネ……」


彼女の話によると、リモージュもロザリアも心配しており、本当ならこっちへ来たいところだが
宇宙の維持を考えて、今回はこちらへ来ることが出来ない、ということらしい。


「…もしもの時のために、これを渡してって……」
「これは?」


レイチェルから受け取った包みの中には、直径三センチほどの水晶が、全部で十八個入っていた。
色とりどりの水晶は、光に反射して、キラキラ光っていた。


「皆サンの"意志"だと、陛下は言ってマシタ。例えば……」


その水晶の中から、オレンジ色の水晶を手に取った。するとその水晶は、レイチェルが手に取ったことにより、光を放ち始めた。


「…これを持っていれば、洗脳をされることはない、と」
「便利なものを下さるじゃねーか」


ゼフェルは銀色をした水晶を手に取る。レイチェルの時と同じように、水晶は光り始めた。
オスカーは赤色、メルは朱色、エルンストは紺色の水晶を手に取った。


「私は…何色かな……?」


コレットは、水晶に手を近づけた。
すると、一つの水晶が、導かれるように彼女の手の内に収まった。
十八個の水晶の中で、唯一形が違っていたその水晶――ハートの形をしている――は、透明だった。


「透明……純粋なお嬢ちゃんにはピッタリだな」


ギュッと握りしめ、顔を上げた。


「とりあえず、食事をしましょ☆」


腹が減っては戦が出来ぬってね、とレイチェルは言う。
確かに気を張りすぎていても、どうしようもないものはどうしようもない。
そして夕食を食べ終わった後、各自部屋に戻り、明日に備えることにした。







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