第壱話 転校生
(あー・・・どんな奴なんだろう)
京一はそんなことを考えていた。新学期も始まって何日かした今日、時季はずれの転校生が来るらしい。
知り合いの情報によると、綺麗な男だというが、京一は、
(幾ら綺麗でも男は男。俺にとっちゃあ関係ねえな)
と、考えていた。
ガララララ・・・・
教室のドアが開く音がし、3−Cの担任のマリア・アルカードがやって来る。
「起立。」
クラス委員の号令がかかる。
「Good moning, everbody.」
「Good moning, Miss Maria.」
いつも通り、英語での挨拶をする。
「みんなおはよう。今日はH・Rを始める前に、転校生を紹介します。じゃあ、入って」
マリアは、廊下にいた生徒を教室へ招き入れる。すると教室中の全員が、その生徒を見て、言葉が出なくなっていた。
「自分の名前を黒板に書いて、自己紹介をしてくれる?」
マリアに言われ、その生徒が黒板に名前を書く。
「・・・緋勇龍麻です。よろしくお願いします」
龍麻は澄んだボーイソプラノで、自己紹介をした。
そのとき京一は、龍麻に目を奪われていた。
龍麻の外見は、白く整った顔立ち、美しい漆黒の瞳、綺麗で艶やかな髪、真紅の艶めかしい唇と、この学園の聖女に対抗できる美しさがあった。
じっと、龍麻を見ていると、不意に二人の目があった。それと同時に、京一はとても不思議な感覚におそわれる。
なんだか龍麻の目を見ると、とても懐かしい感じがした。京一は、自分でも顔が赤くなっていくのに気付き、慌てて頭を振った。
京一が気付いたときには、龍麻は女子の質問責めにあっていた。龍麻は一つ一つ丁寧に答えていった。京一はそんな龍麻を見て、さらに顔が赤くなっていった。
(・・・もしかして、これが一目惚れって奴か!?)
京一が呆然としている中、マリアはあまりの質問の多さのため、質問をうち切って、龍麻の席を決めていた。そして、マリアはHRを始めた。
HRが終わり、京一は龍麻の所へ行こうとした。しかし、隣の席である美里葵が既に話しかけていた。
話の内容までは、京一でも聞き取れなかった。さらに、美里の親友である桜井小蒔まで龍麻の所にやってきた。それを見て、
(そういや今日は醍醐を見てねーな)
と、考えていた。どうやら話が終わったらしく、美里と小蒔は、龍麻から離れていった。
しかし、なんだか小蒔が怒っていたように見えた。そして京一は龍麻に近づいていく。
「よお、転校生。俺は蓬莱寺京一。縁あって同じクラスになったんだ。よろしくな」
京一は、少しドキドキしながら話しかける。
「またか・・・このクラスは、よほど物好きが多いと見える。まあいい、お前にも忠告しておく。・・・俺にあまり関わるな」
龍麻は京一の方に顔も向けずに言った。
(『俺に関わるな』だと?一体何いってんだ)
京一がそんなことを考えていると、チャイムが鳴ってしまい、京一は席につかなければならなくなった。
昼休み、京一は龍麻に学校案内でもしてやろうと思い、龍麻の所へと向かう。しかしそこには、またしても先客がいた。
(佐久間・・・・!!)
そこにいたのはクラス一の不良である、佐久間猪三だった。それを見て京一は、慌てて龍麻に呼びかける。
「おい、緋勇!」
龍麻と佐久間は、こちらを向いた。佐久間は、邪魔が入ったと思ったらしく、その場を立ち去った。
京一は龍麻の所へ行き、呟く。
「何だ、佐久間のヤローは・・・」
京一が龍麻の方を向くと、龍麻は京一を睨み付けていた。
「・・・何の用だ」
「いや、せっかくだから、俺が学校の中を案内してやろうと思ってな」
そう言うと、龍麻はさらに鋭く睨んできた。
「・・・俺に関わるなと言ったはずだ」
龍麻はそういって何処かへ行ってしまった。残された京一は龍麻のことは諦め、屋上へと向かった。
「何なんだろうな、あいつ・・・」
京一は、朝買ってきたパンにかぶりつきながら、考えた。
始業式もとっくに終わった今日に転校してきた、時季はずれの転校生。
美里にさえも負けないほどの美貌を持ちながら、冷たい氷のような性格。
(緋勇の、あの前髪に隠れた瞳に時折映る悲しみの色は、あいつの心の中のどんなことを写しているんだろう・・・)
不意に京一は、龍麻が何を考えているのか、知りたくなってきた。
キーンコーンカーンコーン・・・
「やべっ、授業がはじまっちまう!・・・・・・ま、いっか。
どーせ授業に出たって寝ちまってせんせーに大目玉食らうだけだし・・」
京一は結局、五時間目はふけることにした。ふけるのもかなり大目玉を食らうと思うのだが、
どうせ京一の頭の中には、龍麻のことばかり浮かんできて、授業には集中できない。
(こりゃ、かなりの重傷だな・・・)
そこで京一は、あることに気が付いた。
「・・・ちょっとまてよ・・・?」
京一は改めて考えてみる。
(俺も緋勇も男だ。とすると・・・・・・俺は、ホモってことか!?)
それは紛れもない事実。変えることの出来ない真実。しかも、一目惚れだから、さらにたちが悪い。
「誰かに相談でもするか・・・?」
京一は相談相手を誰にするか、考えてみた。
(あの恋愛鈍感男とオカルトマニアにこんな事相談しても、まともな答えが返ってくるはずがないし)
却下。続いて浮かんできたのは・・・
(男女とカメラ女となんかに相談したら、馬鹿にされるのは目に見えてる)
続いて却下。
(じゃあ、生徒会長殿か?・・・いや、駄目だな。あいつは見た感じ、緋勇のことが好きなんだろうし・・・)
京一はそこまで考え、溜息を漏らす。そして今度は、家族の中で相談できるのがいないか、考える。
(親父にそんなこと言ったら張り倒されるだろうし、お袋は泣くかもしれねえ)
そこで、ある人物が浮かび上がってきた。
(麻紀姉なら、多少笑われたりするかもしれねえけど、ちゃんと答えてくれるな)
「よし、帰ったら麻紀姉に相談してみよう」
京一は、終業のチャイムが鳴ったので、教室に帰ることにした。
放課後、京一は龍麻を誘って帰ろうとしたが『剣道部の有能な副部長』に引きずられ、部活の方に出なきゃならなくなった。
しかし京一は、さっさと逃げ出していつもの場所で昼寝をすることにした。いつもの場所とは、体育館裏の木の上である。
京一が眠りにつこうとすると、なにやら下の方が騒がしくなってきた。京一は下を見てみる。すると、そこにいたのは佐久間と・・・
(緋勇!?)
そこには、佐久間の手下に腕を掴まれた龍麻がいた。
しかし龍麻は相変わらず何も言わずに、じっと相手を見据えている。その態度が気に入らないらしく、佐久間は龍麻に掴みかかる。
「俺達がお前に、この学校の流儀ってもんを教えてやるよ!」
佐久間が龍麻に殴りかかろうとするのがわかり、京一は声を出してしまった。
「お前ら、転校生からかうにしちゃあ、ちょっとやりすぎじゃねえか?」
その場にいた全員が、京一に注目した。
「てめえは蓬莱寺・・・」
京一は木の上から降り、龍麻の側へ行く。
「ちょうどいい、俺はお前も気に入らなかったんだよ!まとめて潰してやる!」
「奇遇だな。俺もお前のその不細工な顔が気に入らなかったんだよ」
京一は佐久間を挑発する。佐久間は京一の挑発に、まんまと引っかかる。
「クソッ!!殺っちまえ!!」
「俺の側から離れるなよ!」
その言葉に、龍麻は何も言ってこない。もう一度言おうとすると、目の前に佐久間の手下がやってきた。
向かってくる佐久間の手下どもを、次々に木刀で気絶させていく。
しかし、京一が雑魚にかまっている間に、佐久間が龍麻に向かってきていた。
「緋勇!危ない!!」
だが次の瞬間、京一の心配はあっさり消え去った。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
龍麻は、佐久間の腹に一打加え、壁まで吹っ飛ばした。京一が呆然としていると、何者かの声が聞こえた。
「佐久間、京一!もうやめろ!!」
京一は一瞬、何が起こったかわからなかったが、突然乱入してきた声で我に返った。
「醍醐!それに美里まで!!」
声の主は京一の友、醍醐雄矢。その後ろには、美里もいた。
「佐久間くん、もうやめて!」
「みさ、と・・・」
佐久間は美里の声に反応し、顔を上げた。
「ここで大人しく去れば、私刑の件は見逃してやる」
醍醐にそう言われ、佐久間は去っていった。
「おい・・・」
龍麻が京一に話しかけてくる。
「何だ?緋勇」
龍麻は、京一を鋭く睨み付けて言った。
「・・・なぜ、俺を助けた。俺に関わるなと言ったはずだ」
京一は、龍麻の問いかけに答える。
「お前が佐久間に絡まれてるから、黙っていられなかったんだよ」
それを聞き、龍麻が冷たく言い放つ。
「・・・余計な真似を。今後一切、俺に関わるな。さもなくば、お前の命がないと思え」
龍麻はそう言って去っていった。京一が美里の方を向くと、美里は、去っていく龍麻の背中をじっと見ていた。
(そうだよな・・・これが正しいんだよな。女が男に惚れる。何も間違ってはいねえ)
「緋勇龍麻・・・一体何者なんだ・・・?」
醍醐はそっと呟いた。
「恐ろしいほど強いわ。けれど、何かを隠しているような気がする・・・・・・」
美里は、独り言のように呟いていた。
「俺にもわからねえ。だが、もしかしたらこの学校の別名に関係があるかもしれねえ」
京一がそう言うと、醍醐が続ける。
「・・・魔人学園・・・・・・」
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