第弐話 怪異

放課後。長い授業から解放された生徒達は、家に帰ったり、部活に出たりとしている。そんな中、京一も龍麻と一緒に帰ろうと思い立つ。

(絶対にあいつの心の壁を溶かしてやる)

「緋勇!一緒に帰ろうぜ」

しかし相変わらず、無視されている。するとそこに、一人の女生徒がやってきた。

「緋勇君!ねえねえ、昨日のこと、教えてくれない!?」
「げっ・・・アン子じゃねえか」

京一はその女生徒を見て驚く。彼女は遠野杏子。京一の苦手な人の一人だ。

「あら京一、いたの?」

杏子は、京一に気付いたようだ。

「いたの?じゃねえよ。お前、緋勇に何の用だ!」
「京一には関係ないでしょ!?」

いつも通り言い争いになる。その間に龍麻は帰ろうとしていた。すると、後ろから龍麻は声をかけられる。

「緋勇!」

声をかけたのは醍醐だった。

「・・・何の用だ」
「緋勇、お前に決闘を申し込みたい」

それを見て、杏子との言い争いをおわした京一は、醍醐に言う。

「・・・昨日の佐久間との戦い、端っから見てたんだろう。どーせ俺と佐久間の争いを見ようと思ってな。
 しかし、緋勇の技に興味を持った。違うか?醍醐」

京一の鋭い指摘に、醍醐は笑って言う。

「ははは、お前は本当に勘だけ鋭いな。なのに、勉強の成績は最悪なんだから、面白い」
「最悪は余計だ!せめて、思わしくないとか、柔らかく言えねえのかよ」

京一はふてくされる。

「俺はいい友を持ったよ。・・・そう言うわけだ、緋勇。勝負、受けてくれるか?」

京一は、龍麻がいつも通り断るかと思っていたが、

「・・・勝負だったら、いつでも受けてやる」

と、承諾したので、かなり驚いている。醍醐も、まさか受けてくれるとは思ってなかったらしく、少し驚いていた。

「じゃ、じゃあ、俺についてきてくれ」

 醍醐は龍麻を連れていく。京一もちゃっかりついていっている。



醍醐が向かったのは、レスリング部の部室だった。普段なら、醍醐を中心としたレスリング部の部員が汗水垂らして、鍛錬しているのだが、今日に限って誰もいなかった。

「醍醐、他の部員はどうしたんだ?部活、休みじゃねえんだろ?」

京一は疑問を醍醐に投げかける。

「実は昨日・・・佐久間の奴が他校の生徒と喧嘩して、警察沙汰になったらしい」
「!!昨日って言ったら、緋勇や俺と喧嘩した後か・・・?」

醍醐は頷く。

「PTAの方がうるさいらしい。

正式には言われてないが、俺が職員室に行って自主休部を申し出てきた」

「そんなの、ばっくれちゃえばいいじゃねえかよ」
「ははは、そんなわけにもいかんだろう」

醍醐は龍麻の方を向き、言った。

「じゃあ、緋勇。一つ手合わせ願おう。手加減は無用だ」
「・・・こっちこそ」

あくまで冷静に言う。

「いくぞっ!!」

醍醐が龍麻に向かって駆け出す。

『ミドルキック!』

醍醐の放った一撃を、龍麻はあっさりかわす。そして、醍醐の後ろへ回り込み、一撃を加える。

『流星脚!』

その一撃で、あっさりと倒れる醍醐。龍麻は、醍醐が起きあがってこないのがわかると、帰っていってしまった。

「醍醐、いきてっか?・・・しかし真神の醍醐ともあろう奴が一介の・・・
 しかも転校生に負けるとはな。他の奴らが知ったらどう思うか」

その台詞に、醍醐はゆっくりと返す。

「真っ向から勝負して負けたんだ。仕方ない。それにしても、緋勇龍麻・・・何者なんだ。 古武道の構え・・・あの技・・・」
「全身からは鋭い殺気が放たれているが、その技には全く殺気が隠っていない」

京一も見ていて気が付いたようだ。

「さすが、抜け目がないな、京一。それにしても、久しぶりにいい気分だ・・・」

そして醍醐は、気を失ってしまった。



次の日になり、今日こそ龍麻と一緒に帰ろうとしたが、龍麻はマリアに呼ばれ職員室に行ってしまった。

「くっそー・・・校門の所で待ってりゃ来るかな・・・?」

京一はしばらく龍麻を待っていた。すると校舎の方から龍麻が歩いてくるのに気付く。

「緋勇」

龍麻は顔を上げ、自分に声をかけた人物を確かめる。

「・・・お前か」
「緋勇、一緒に帰らねえか?」

しかし、龍麻は無視していってしまった。そこへ醍醐が現れる。

「京一。緋勇は行ってしまったか?」
「ああ。相変わらず無視されてな。仕方ねえ、二人でラーメン屋に行くしかねえか」
「どこに行くって?二人とも」

後ろから、女生徒の声がする。

「桜井じゃないか。どうしたんだ?」

小蒔は二人を見て、

「あれほど葵に登下校中の買い食いはいけないって言われてるのに・・・」

と、注意した。

「うっせーな。俺達が何しようと勝手だろ?」
「ま、いいや。それじゃあ行こうか」

小蒔は突然言った。

「はっ?」
「だからー、早く行こうよ。ボクお腹ペコペコでさ」

どうやら、小蒔もラーメン屋に行くらしい。

「誰がお前なんか連れてくっていったんだよ!」

すると小蒔は、校舎の方を向く。

「仕方ないなぁ・・・すぅー・・・」

そして大きく息を吸って叫び始めた。

「犬神センセー!!蓬莱寺がですねー!!!」
「馬鹿!何言ってるんだ!」

京一は慌てて小蒔の口を塞ぐ。

「わかった、わかった。連れてってやるから、叫ぶのは止めろ!」
「むぐぐ?(ほんと?)」
「ああ、ほんとだ。な、醍醐」

醍醐は突然話を振られ、戸惑う。

「あ、ああ」
「やったね!」

京一は、がっくりと肩を落とす。

(あーあ・・・緋勇を誘うはずが、こんな事になるなんて・・・)

そのまま京一たちはラーメン屋へと向かった。



三人がラーメン屋で、他愛のない話をしていると、突然杏子がラーメン屋に駆け込んできた。

「お願い!!美里ちゃんを捜して!」
「「「?!」」」

突然のことに、三人は驚きを隠せない。

「ねえ、葵がどうかしたの!?」
「実は・・・」

杏子は、何があったのか話し始める。杏子は、美里を連れて旧校舎の探索をしていたらしいが、
赤い光に追いかけられ、気が付いたら美里とはぐれていたらしい。

「京一、学校へ行くぞ!」

醍醐は話を聞き終わるとすぐ、京一に言った。京一は頷く。

「ボクも行くよ!」

小蒔が自分を行くと意思表示をする。しかし醍醐の答えは否。

「なんで!?ボクも葵を助けに行くんだ!」
「醍醐、いいじゃねえか!今はそんなことに時間取ってる暇はねえんだ!」

醍醐は観念する。そして一行は旧校舎へと向かう。



旧校舎の前につくと、そこには驚くべき人物がいた。

「緋勇!?どうしてお前が!」

そこには、私服の龍麻がいた。どうやら家に帰ってから、もう一度学校へ来たらしい。

「・・・お前らこそ、どうしてこの場所へ・・・?」

龍麻の問いに、小蒔が答える。

「葵が、葵が旧校舎の中で行方不明になっちゃったんだよ!」
「そうなの!あたしと美里ちゃん、赤い光に追いかけられて・・・」
「赤い光・・・?」

龍麻は杏子の言葉に反応した。

「ねえ、緋勇クン。葵を助けるの、手伝ってよ!お願い!」
「・・・仕方ない・・・」

龍麻が承諾する。

「みんな、こっちよ!」

杏子は四人を呼び寄せる。そして一行は、旧校舎の中に入っていく。


「・・・ったく。何でこんなとこに二人でくるんだよ」

京一は呟く。

「だって、どうしても旧校舎の秘密が知りたくて・・・」
「あっ!!ねえ、みんな!あの教室の中が光ってるよ!?」

小蒔が何かを見つけて叫んだ。

「あの光は・・・!」

龍麻は光を見て、その教室の方に走っていってしまった。

「緋勇!!」

京一達は慌てて追いかける。

「遠野、お前達が追いかけられた光ってのはあれのことか!?」

醍醐は走りながら杏子に問う。

「違う!あたし達が見たのは赤かったもの!けれど、あの光は蒼いわ!」

教室内に入った四人が見たのは、教室の床に倒れている美里と、その横に佇む龍麻の姿だった。

「葵!」

一行は美里に近づいていく。すると、驚くべき事に蒼い光は、美里が発していたのだった。

「なんだ・・・これは・・・」
「わからねえ・・・」

醍醐の呟きに京一が答える。すると、美里が目を覚まし始める。

「う・・・ん・・・?」
「葵!!大丈夫!?」

美里は体を起こす。

「小蒔・・・それにみんなも・・・」
「ごめん、美里ちゃん。あたしが旧校舎なんかに誘ったから・・・」

杏子は美里に謝罪する。

「いいのよ。こうして助けに来てくれたのだし。それより私、気を失っていたみたいね」
「それなんだけど、美里ちゃんが気を失ってるとき─── 」

さっきのことを杏子が美里に伝えようとすると、京一が制止の声を上げる。

「アン子、その話はまたあとだ!」

京一は廊下の方を見ていた。もちろん醍醐も。

「何、あれ・・・!」

そこにいたのは巨大な蝙蝠。一匹一匹が赤い光を発していた。

「遠野、桜井!美里を連れて逃げろ!」
「やだっ!ボクも残るよ!」

醍醐の言葉に小蒔は反対した。

「なっ─── 」
「醍醐!討論している暇はねえぞ!」

醍醐は小蒔に何か言おうとしたが、京一に止められた。

「くっ・・・仕方ない。桜井!危険になったら逃げるんだぞ!」
「うん!!」

京一達がそうこうしている間に、蝙蝠達は迫ってきた。

「うッ・・・くそォッ!」

一番前にいた京一が、蝙蝠に攻撃を受けてしまった。

「京一!!」

醍醐が反撃しようと、蝙蝠達に向き直る。しかし、醍醐が動く前に一つの影が蝙蝠に向かっていっていた。

『雪蓮掌!!!』

その影の正体は龍麻だった。次々に蝙蝠を蹴散らしていく。

「緋勇!!後ろ!」

いつの間にか龍麻の後ろを捕らえていた蝙蝠の存在を、京一が痛みをこらえながら龍麻に伝えた。

『・・・円空破!!』

しかし龍麻は動じることなく敵を倒していく。

「うっ・・・」

京一の出血はなかなか止まらなかった。

「京一ィ!!」

 すると突然、後ろから声が聞こえてきた。

『がんばって・・・!』

そして京一の身体が淡い光に包まれる。

「葵!!」
「ごめんね、みんな・・・」

なんと、美里が戻ってきたのだった。

「とりあえず、緋勇の援護を!!」

京一は愛用の木刀を袋から出し、緋勇のもとへと向かう。


『体もたぬ精霊の燃える盾よ私達に守護を・・・!!』

美里が全員の援護に回る。醍醐は蝙蝠と戦う龍麻のもとへ向かい、小蒔は後ろから蝙蝠を狙った。

『剣掌ッ!!』

京一は知らず知らずのうちに、その剣技に《氣》を乗せていた。他の面々も同じだ。

そして、蝙蝠を全部倒した後、美里は全員に謝る。

「ごめんなさい、戻ってきたりして・・・アン子ちゃんには、先生を呼びに言ってもらっているから」
「でも葵、あの力は・・・?」

小蒔は先ほどの美里の力について問う。京一の傷があっという間にふさがったり、
蝙蝠達からの攻撃が受けにくくなったりと、普通では考えられないことであった。

「わからない、わからないの・・・」

美里がそういうと、その身体は、再び発光を始めた。

「葵!?」

小蒔は美里に近づく。

「くっ・・・おかしいのは、どうやら美里だけではないらしい・・・」

京一は醍醐を見る。すると、醍醐も美里と同じく発光していた。そして、小蒔と京一も同じく発光を始めた。

「何なんだ、一体!」

京一が叫ぶ。するとその場にいた全員の頭の中に声が響いてきた。


  目醒めよ──────



京一達は、目の前が真っ白になっていくのを感じながら、気を失っていく。

「駄目だ!他の人を巻き込まないでくれ!!」

そんななか京一は、龍麻が何かを叫んでいるのが聞こえたような気がした。



「う・・・」

京一達が気がついたのは旧校舎の前だった。

「全員目が覚めたか・・・」

独り言のように呟いたのは龍麻。

「緋勇クン、君何か知ってるの?今日のことを・・・」

小蒔は龍麻に問う。

「・・・これでわかっただろう?俺に関わると、さらに非道い目に遭うぞ。二度と俺に関わらないことだな」

龍麻はいつも通り冷静に告げる。そんな龍麻に京一が掴みかかった。

「おい、緋勇!まだそんなこと言ってるのか!?俺達はここまで関わってんだ!あの光のことも、蝙蝠を倒すときに出た力も、
 何のこともわからずにこのままさよならってか!?そんなのできるかってんだ!」
「そうよ、緋勇くん」

美里も、他の二人も同感のようだ。

「お前ら・・・危険な目にあってもいいのか・・・?」

龍麻は呟く。

「でも、俺達がやんなきゃおまえは一人でやるだろ!?お前一人危険な目に遭わせて、
 俺達はそれを見て見ぬ振りをしろって言うのか!?冗談じゃねえ!」

京一の言葉に龍麻は、

「・・・お前はただのクラスメイトのために、命を捨てられると言うのか」

と、京一を睨み付けて言った。その言葉に京一は、

「ただのクラスメイトじゃねえ!俺達は“友達”だ!」

と、声を張り上げて言う。

  フッ・・・

龍麻は口の端を少しあげて笑った。京一達は、龍麻が笑ったのを初めてみた。

「・・・変な奴らだな、お前らも・・・」
「ところで緋勇くん。あなたあの“光”と、この“力”について、何か知っているの?」

美里が龍麻に問う。

「俺も余りよくわからない。しかし、前の学校であの‘赤い光’と、‘蒼い光’は、一度見たことがある。」

龍麻は前の学校で起きた事件のさわりを話す。

「そんなことが・・・」

龍麻以外の全員が驚きを隠せないでいる。

「それじゃあ俺はここで・・・」

龍麻が帰ろうとすると、京一がそれを呼び止める。

「緋勇!」

龍麻は振り向いて言った。

「何だ・・・蓬莱寺。」

その場にいた全員が龍麻がこの学園に来て初めて人の名前を呼んだのを聞いた。そして京一は、龍麻にいう。

「お前も腹減ってるだろ?だから、これからラーメン食いにいかねえか?」
「あっ!京一にしてはいい考えじゃん。ボク賛成!いいよね、葵」

小蒔は美里に聞いた。確か規則で、登下校中の買い食いは禁止というのがあったから、小蒔は、生徒会長である美里に許可を取ろうとしたのである。

「しょうがないわね。たまには・・・ね」

美里は笑顔で言う。そんな光景を見て龍麻は言った。

「・・・いいよ。俺も付き合うよ」
「よっしゃ!じゃあ、ラーメン屋に行こうぜ!」


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