第参話 妖刀

放課後。京一が龍麻にある話を持ちかけようとすると、龍麻は一人の男生徒に声をかけられていた。

「よう、緋勇」

その男生徒は醍醐だった。

「どうだ。学校にはもう慣れたか?」

醍醐の問いに、龍麻はいつも通りに答えている。

「・・・俺に気安く声をかけてくるのはお前らぐらいだよ」
「はっはっはっ。まあ確かにお前は、何処か近寄りがたいふいんきを出しているからな。・・・実はこの前の旧校舎の一件から、
 お前のことを気にしてたんだ。美里はあれから変わった様子は見られないし、京一と桜井はいつも通りだしな」

醍醐がそういうと、京一は二人のもとに向かった。

「よう、御両人。何話してんだよ」

京一は、たとえ醍醐とは言え、龍麻が他の奴と喋ってるのが嫌で邪魔しに来る。

「・・・噂をすれば、だ」
「何だよ」

醍醐は深く溜息をつく。

「お前がそういう顔しているときは、ロクでもないことを考えてるときだよ」

そんな醍醐に対して京一は、反論する。

「俺はただ、そろそろ花見の季節だなぁと思ってな」
「で・・・?」

醍醐は問う。

「櫻の花の下で、緋勇と友情について熱く語り合おうとだな」

しかし京一の本心は、

(緋勇と、少しでもお近づきになってやる!)

なのであった。

「・・・で、その本音は?」

醍醐は再び京一に問う。

「いや、さぞかし酒が美味いだろうなぁと・・・」

(酔った緋勇も可愛いだろうなぁ・・・)

京一は心の中で、そう思っていた。醍醐がなにやら酒のことで文句を言っている。

「だったら緋勇にも聞いて見ろよ」
「・・・むう・・・緋勇、高校生が酒なんて、もってのほかだとおもわんか?」

醍醐は、それまで黙って二人の言い争いを観戦していた龍麻に問う。すると龍麻は醍醐をからかうようにいった。

「・・・さあね?」
「緋勇、お前なぁ・・・」

醍醐は呆れた声を出すが、顔は笑っていた。龍麻が少しずつみんなに馴染んできたことを嬉しく思っているのだ。
すると後ろから、聞き慣れた女生徒の声がしてきた。

「京一、あんまり醍醐クンを困らせるなよ」
「小蒔と美里じゃねえか・・・」

そこにいたのは、小蒔と美里だ。

「ねえ、花見に行くの?だったらボク達も行くよ!ね、葵」
「・・・・・・」

小蒔が問いかけるが、美里はボーっとしていて答えない。

「葵ってば、どうしたの?」
「え、ええ。そうね。緋勇くんの、歓迎会も込めてね」

小蒔に身体を揺すられ、はっと我に返った美里は、そういった。

「それだ!そうだよ、まだやってなかったじゃねえかよ。歓迎会」
「歓迎会なら、あたしも行こうかしら」

京一が言い終わると、後ろから女生徒の声がする。

「遠野じゃないか」
「何でてめえが来んだよ!」

京一は、杏子に怒鳴りつけた。

「だって、緋勇君の歓迎会でしょ?ね、緋勇君。あたしも行っていいよね?」

杏子は龍麻に問う。

「・・・好きにすれば?」
「だって。じゃあそういうことで、ここにいる全員は参加ね」

いつの間にか、杏子が仕切り始めていた。

「京一、酒は駄目だからな」

醍醐は京一に忠告する。

「わーってるよ!・・・ったく、保護者面すんなよ」

醍醐に悪態をつく京一。しかし醍醐は気にした様子もなくいった。

「何とでも言え。俺はお前のあきらめの悪さをよーく知っているからな。ジュースに混ぜてでも、持ってきかねん」

それを聞いた杏子が、

「じゃあ、先生にもついてきてもらえば?流石に先生の前じゃお酒は飲めないだろうし、マリア先生なら、きっと来てくれるよ」

と言った。

「なんだとー!!俺達高校生だぜ?引率付きじゃ、何かなぁ・・・」
「はいはい、男はグダグダ言わないの。じゃあ、職員室に行こっか」

小蒔を先頭に、一行が廊下へ出ようとすると、その前に立ちはばかる者がいた。

  ドンッ!

前を見ていなかった小蒔はつい、ぶつかってしまった。

「どこにつったってんだよ・・・って・・・」

小蒔はそのぶつかった相手を見て驚いていた。

「佐久間・・・」

醍醐はそいつに話しかける。しかし佐久間は醍醐を無視して、龍麻に話しかけた。

「緋勇・・・もう一度俺と闘え・・・」

龍麻の答えは否。

「逃げんのか、てめえ・・・」

佐久間は龍麻の態度に、怒りを覚えていた。

「バーカ、お前とやった所で、緋勇が勝つに決まってるだろ!」

京一が余計な茶々を入れる。

「よさないか、京一!私闘は俺がゆるさんぞ!」

醍醐が京一を制止する。

「・・・けっ。そうやって親分風吹かしてられんのも、今のうちだけだぜ。緋勇の次には、醍醐、てめえを殺ってやる・・・」
そして佐久間は去っていった。

「・・・何か、ますます卑屈になってない?ま、でも醍醐クンも緋勇クンも気にすること無いよ」

去っていく佐久間を見ながら、小蒔が二人に言った。

「そうだぜ。どうせ、一人じゃ何も出来やしねえんだしよ」
「じゃ、職員室に行きましょ」


二階廊下に出たところで、杏子がいきなり立ち止まり、一同に向かっていった。

「そうだ。どうせだったらミサちゃんも呼ばない?」

その言葉に真っ先に反応したのは京一だった。

「何だとー!!あいつ呼んだら、きっととんでもないことが起きるぞ!なあ、醍醐」
「緋勇君の歓迎会なのよ?あんた達の好き嫌いで人選して欲しくないわね。ね、緋勇君。 ミサちゃんも一緒に行ってもいいわよね?」

杏子は京一を無視して、龍麻に話しかける。
「・・・ミサって誰のことだ?」

その一言で、全員がずっこける。

「そ、そういや、緋勇は裏密と面識がなかったな。」

そう言ったのは京一。自分のクラスでああいう態度なのだから、他のクラスのことなんかわかるわけがない。
杏子が話そうとすると、どこからともなく声が聞こえてきた。

『うふふふふふ〜・・・あなたが緋勇君ね〜・・・』

その場にいた全員がその声の主を捜す。その声の主は、龍麻の後ろにいた。

「うふふふふふ〜。私、裏密ミサちゃんで〜す」
「・・・」

龍麻は、裏密のふいんきに、少し戸惑っている。

「ミサちゃん。あたし達これから花見に行くんだけど、よかったらミサちゃんもどう?」

杏子は裏密に問う。しかし裏密は少し考えてからいった。

「・・・お花見〜、桜〜、紅き王冠〜・・・場所はどこ〜?」
「えっ?中央公園だけど・・・」

小蒔の答えに裏密は言った。

「西の方角ね〜。7に剣の象徴あり・・・紅き王冠に害なす剣・・・鮮血を求める兇剣の暗示ね〜・・・あっちは方角が悪いよ〜・・・」
「えー・・・せっかくのお花見なのに?」

不服そうに声を上げたのは杏子だった。そんな杏子に裏密は言った。

「まあ、信じるか信じないかは、みんなの勝手だけどね〜・・・」
「じゃあ、ミサちゃんはいけないのね?残念だわ・・・」

本当に残念そうに、美里が呟く。

「ちょっと待って?そういえば・・・剣ってもしかして、この前国立博物館でやってた日本大刀剣展で盗まれた刀と何か関係があるの?」

杏子が何かを思いだしたように言う。

「アン子。盗まれた刀がどうかしたの?」

小蒔が杏子に問う。

「うん、まあね・・・」

杏子は知っていることを話し始めた。国立博物館でやっていた日本大刀剣展のことについて、
そこで盗まれた刀の盗まれ方が異常だったことについて、その盗まれた刀“村正”のことについてなど・・・

「で、その“村正”が、中央公園にあるってのかよ」

長い話を聞き飽きたのか、京一がイライラしながら言った。

「わからないわ」
「ま、こんなとこでそんな話をしててもしょうがないからさ、早くいこ」

小蒔の言葉に、全員が階段へと向かう。

「じゃ〜ね〜、一応、気を付けてね〜・・・・・・」


職員室に来た一行は、早速マリアを捜すが、その姿を見つけられなかった。

「あっれー?マリアセンセーいないよ?」

すると、職員室に誰かが入ってきた。

「お前ら、職員室に何の用だ。」

全員が振り向くと、そこには一人の男教師がいた。

「げっ、犬神・・・」

その教師の名は犬神杜人。杏子や裏密の3−Bの担任で、生物の教諭である。

「私達、マリア先生を捜しているんです。一緒にお花見にでも行こうかと・・・」

犬神の質問に答えたのは美里。

「マリア先生なら教頭と話し合ってるさ。すぐに戻ってくるだろうが」
「そうですか・・・」

犬神は、龍麻の顔を見ていった。

「・・・所でお前ら、この前旧校舎に入っていただろう」
「はい」

龍麻は素直に答える。

「・・・緋勇は素直だな。蓬莱寺も少しは見習えよ」
「緋勇!お前こういうときだけ素直になんなよ!」

京一は龍麻を軽く小突く。

「もう旧校舎へは近寄るなよ。あそこは危険だからな・・・」

犬神の言葉に、反応したのは杏子。

「犬神先生は、あそこに何がいるか知っているんですか!?」

そんな杏子の問いに犬神は、

「何がいるんだ、遠野。俺はただ、あそこは古いから、床が抜けたりして怪我をしたりするから危険、だと言いたかったんだが・・・」

と、ほんの少しからかうように言った。

「えっ?や、やだなぁ、先生ったら」
「(バカアン子ッ!)」

京一は杏子に小声で言った。

「(うるさいわね!)」
「それより、お前ら。確か花見に行くとか言っていたな。場所は中央公園か?」

二人の言い合いに気付きながらも、あえてそれを無視していった犬神。

「はい。犬神先生はお花見には行かれないのですか?」

美里の質問に、犬神は思い出すように答えた。

「そういえばしばらく行ってないな・・・。俺はどうも、桜を好きになれないんだ。命を早く散らせていることが、人間と同じような気がしてな・・・」

その答えに美里は言った。

「ですが、短い命だからこそ、美しく輝ける。それは桜も人も同じだと思います」
「それは死を知らない人の言うことだ」

冷たく言い放つ犬神。

「ま、花見に行くのはいいが、桜以外のものが散らないようにな」
「他に散るものって何だよ?・・・ゴミか?」

犬神の言葉に京一は、本気顔でそう言った。

「フッ・・・緋勇は何かわかっているんじゃないのか?じゃあな」

そんな京一に、犬神はそういい残して去っていった。

「緋勇くん・・・何か知っているの?」

美里は龍麻に問う。しかし龍麻は何も答えない。

「アラ、あなた達。どうしたの?」

そこに、マリアがやってきた。

「あっ、マリア先生。あたし達今から、緋勇君の歓迎会をかねて、お花見に行くんです。それでマリア先生も誘おうと思って・・・」

そういったのは杏子だった。

「そうね。先生も改めて緋勇クンを歓迎したいワ」
「じゃあ、中央公園に六時でいいですか?」

醍醐はマリアに問う。

「ええ。もう少し仕事が残っているけど、それに間に合うように終わりにしておくわ」

マリアの返事を聞き、杏子が言った。

「じゃあ、そろそろ帰りましょう」

一行は職員室をあとにして校門に出た。

「じゃあ、またあとで・・・」

 一行はそれぞれ帰路へとついた。



新宿区中央公園。春になると毎年綺麗な桜を咲かせる樹は、今年も見事な桜を咲かしていた。そんな中京一は何となく、早く来てしまった。

「まだ五時三十分か・・・誰も来てねえよな」

待ち合わせ場所に急ぐ京一。

「・・・?誰かいるぞ・・・?」

京一はよく目を凝らしてその人物をみてみる。その人物は、京一に声をかけてきた。

「・・・蓬莱寺か?」

 そこにいたのは龍麻だった。

(緋勇!?何でこんな早く・・・)

そんなことを考えていたが、龍麻の服装や持ち物を見て納得いった。学生服のままで、鞄まで持っていた。
つまり学校から直接ここに来たわけだ。しかし京一はそんなことも気にせず、桜の花びらの舞うなかにいる龍麻に、目を奪われていた。

(やっぱ桜の花びらが似合う・・・何でこんなに美人なんだ?)

相変わらず龍麻に釘付けの京一だった。

「・・・寺、蓬莱寺。どうしたんだ?」

龍麻に呼ばれ、我に返る京一。

「い、いや。何でもねえ。それより緋勇。俺のこと、蓬莱寺じゃ呼びづらいだろ。だから別に、京一でもかまわねえぜ?」

京一はつい、そんなことをいってしまった。

(呼ぶわけねえよな。この前まで人の名前なんて名字でも呼んでなかったんだからな)

あまりに高見な望みに、京一が諦めていると、

「・・・なら、俺も龍麻でいいよ・・・京一」

京一は一瞬自分の耳を疑った。

(えっ、今俺のこと、京一って・・・しかも龍麻でいいって・・・)

京一は心の中では天国へと上るような気持ちだった。しかし、その幸福な時間も、突然割り込んできた声に、壊されてしまった。

「あっ、二人とも!もう来てたんだ、早いね。ボク達が一番だと思ってたのにねっ葵」
「うふふ、そうね。急いできたのだけれど、先を越されていたみたい」

その声は、美里と小蒔だった。

(ちっ、せっかく龍麻とイイふいんきだったのに・・・)

そんなことを考えているうちに、醍醐や杏子とも合流し、マリアもやってきて、場所探しをすることになった。

「ねえ、あそこが空いてるよ」

小蒔が一本の桜の木の下を指さす。

「いいわね。じゃあ、あそこにしましょう」

全員で準備を始める。


「じゃあ、この美しい桜と、転校生緋勇龍麻君に──── 」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

龍麻以外の全員が、コップを上げて言った。

「ワタシはジュースとお菓子を買ってきたワ」

どうやらマリアはかなり多くの量を持ってきた。その辺りは、さすが経済力のある大人と言ったところだ。

「ボクは屋台を回って色々買ってきたよ」

小蒔は、焼きそばやたこ焼きなどを持っていた。

「私はお菓子を買ってきたわ。よかったら食べてね」

美里はいろいろとお菓子を出す。

「俺はジュースを買ってきたぞ」

醍醐はペットボトルを三本取り出す。
「私も屋台で食べるもの買ってきたわ」

杏子はリンゴ飴やイカ焼きを持っていた。

「・・・メインの龍麻は抜いたとして、手ぶらなのって俺だけ?」
「きょーいちぃ・・・」

全員が呆れていた。

「へへへ、わりいな龍麻」
「別に・・・」

龍麻はたいして気にしていないようだ。

「ところで緋勇クン。犬神先生から聞いたのだけど、あなた強いらしいのね」

マリアは龍麻に問う。しかし龍麻の答えは否。

「緋勇、そんなに謙遜するな。お前は強いぞ」

そんな龍麻に醍醐が言った。

「・・・俺はそんなに強くない」


  キャアアアアアア!!!!


龍麻がそういったところで、どこからか女性の叫び声が聞こえてきた。

「何だ、今の声は!」
「この匂いは・・・」

龍麻は声のした方に走っていってしまった。

「龍麻!」

京一も慌てて追いかける。

「二人とも!どこへ行くの!?」

マリアの声が聞こえた頃には、醍醐達は急いで二人を追いかけていた。慌ててマリアも追いかける。


桜の木が一本もなく、人気も少ないところに叫び主がいた。

「ひゃーっはっはっはっはっ・・・」

倒れている女性の側に、一人の男が立っていた。その男の手には日本刀が握られていた。
その刀身には・・・赤い血が付いていた。間違いなく倒れている女性の血だ。

「てめえ、その刀で人を切りやがったな!」

京一はその男に怒鳴りつける。

「・・・京一。無闇に近寄るな。あいつは・・・普通じゃない」

龍麻は京一に忠告する。すると醍醐達も到着した。

「遠野、マリア先生。さがっていてください」

醍醐は《力》を持たない二人を後ろに下がらせる。

「よっしゃあ!行くぜ!!」

京一の掛け声で、戦いの火蓋が斬って落とされた。


『体もたぬ精霊の燃える盾よ私達に守護を・・・!』

美里が龍麻に力天使の緑をかける。醍醐と小蒔が周りにいた野犬を倒し、龍麻と京一が刀を持った男に向かって駆けていった。

『剣掌・・・旋ッ!!』

京一が正面から技を仕掛け、相手が油断している隙に龍麻が後ろへ忍び寄り男を倒す。

『・・・掌底、発剄!!』


  ウギャアアアアア!!


男は叫び声を上げて倒れる。龍麻は男の落とした刀を拾い上げた。

「あなた達・・・」

マリアは龍麻達を見る。驚きが隠せないといったところだろう。

「先生、遠野。このことは誰にも話さないで下さい。お願いします」

醍醐が必死に頼み込む。

「・・・わかりました。このことはワタシの心の中だけに留めておきましょう」
「ありがとうございます。遠野も・・・」

醍醐は杏子の方を見る。

「わかってるわよ。友達を売るような真似はしないわ」
「ありがとう、アン子ちゃん」

  ピーポーピーポー・・・・・・

そうこうしているうちに、誰かが通報したらしく、パトカーがやってきた。

「やばい!見つかったらこの状況は説明できねえ!逃げるぞ!」

 京一の言葉に各個逃げ始めるが、杏子だけは、


  カシャッ、カシャッ!!


男の写真を撮っていた。

「アン子!何やってんのさ!早く!」

小蒔が杏子に言ったが、杏子は

「この写真を警察に売れば・・・あっ、週刊誌に売るのもいいかもね。そうすればあたしのジャーナリストへの夢が・・・」

そんなことを言っていた。そんな杏子を見て京一は醍醐に言った。

「醍醐!仕方ねえ」
「しょうがない、少し我慢してくれよ。・・・ッと」

醍醐は杏子を担ぎ上げた。

「ちょっとー!何すんのよ!」
「よし!行くぜ!」


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