序章 はじまりの刻



山奥にある、とても小さな村。そこは約五十人の人々が暮らす、平凡な村だった。

そこに住む人々は、毎日を精一杯生きている。そんな村だった。

その村の一番奥にある民家。そこには二人の兄妹が住んでいた。母親は妹を産んだ直後に死に、父親も失踪した。

五歳年上の兄は妹を可愛がり、村の人々も二人を助けて、日々を暮らしていた。





「兄様!少し御山のほうへ行ってきます」

「夕刻までには帰っておいで」

「はいっ!」


少女は村の入り口に立っていた兄に声をかけ、村を出ていった。

この村よりさらに奥にある、祠へと向かっている。

毎日この祠に少女はきていた。この祠の近くには、彼女の母親の墓がある。

そこへの御参りとともに、この村を護っているといわれているこの祠にも、祈りを捧げているのだ。

母親の墓と祠を奇麗に掃除し、村へ帰ろうと立ちあがった瞬間―――



ドォォォンッッ!!!!



大きな音がした。村のほうを見ると、火があがっているのが分かる。


「―――!!」


慌てて村のほうへと走った。既に村全体に火が広がっていた。

奥の自分の家へと、少女は向かった。

そこには、数人の見知らぬ男達と、その連中に囲まれて地面に倒れている兄の姿があった。

その男達の後ろには幕軍の模様のついた旗がたなびいていた。

男達は、少女の姿に気付き、兄の近くを離れ少女の方へと近づいてきた。


「おい、見ろよ」

「ああ。こんなところにもまだ残ってたか」

「しかも、女だぜぇ?へっへっへっ…しかも、まだ若ェし……」


まるで幕府の志士とは思えないほどの下劣な顔をしながら、ジリジリと少女に近づいてくる。

少女は恐ろしくなり、後ずさりをする。


「おーおー。恐がってんじゃねぇか」

「別に、皆殺しってんだから、ヤッちまってもわかんねぇよな」


男の言葉に、ビクッと身体をこわばらせた。


「……ヤッてから殺したってわかんねぇよッ!!」


連中の一人が少女に跳びかかってきた。

少女は慌てて逃げようとするが、後ろから男に取り押さえられて、身動きが取れない。


「い…いやぁ!」

「―――う……」


少女の叫び声で気がついたらしく、兄が顔をあげる。


「おっ、あの餓鬼が目を覚ましたみてぇだぜ」

「兄様ッッ!!!」


泣きながらも、兄に助けを求める。

しかし、先程連中に手酷くやられたらしく、立つことは愚か声を出すことすら出来ない。

必死に少女の方へと手を伸ばしてくる。


「おとなしくしろ!」


男の一人が、兄に再び殴りかかった。それが決定打になったのか、兄はピクリとも動かなくなった。


「じゃ、そろそろ……」

「おうっ」


男達は少女の着物を破り始めた。


「いやぁぁぁぁ!!!」

「暴れるな。騒いだって、こんな山奥じゃ誰も助けにこねぇよ」


少女の太股に男の手が伸びてきた。気持ちが悪い感覚に悪寒が走る。


「おとなしくしてりゃ、優しくヤッてやるから安心しな」

「誰も見知らぬ奴にヤラれて安心できる奴なんていねぇって」


男達が笑う。


「それにしても、あの御方もとんでもないことを考えやがるぜ」

「ああ。なんでこんな村の奥に祭ってある宝玉を盗ってこいだなんてよ」

「ま、いいじゃねぇか。とりあえずいいモンも手に入ったし……って」

「こいつ、気ぃうしなっちまったんか?」

「おいおい。これじゃ、楽しめねえじゃ――――」


男達の言葉が途中で途切れる。

突然、少女の身体が光り始めたかと思うと、大きな音を立てながら辺り一面に広がる――――――




少女が気がついたときには、周りは村の跡も山の木々もない、荒野と化していた。

男達には処女は奪われていないことを確認する。

ヤラれた跡はない。

一刻は安心したが、少女はたった一人残されてしまったことを思い出す。

兄の姿もない、優しかった村の人々もいない。

ふと、少女は立ちあがり、いつも自分が御参りしていた祠へと足を運ぶ。

祠だけは無事だったらしい。少女はフラフラしながらも祈りをはじめた。

そして突然、祠が光ったかと思うと、奥から宝玉が出てきた。

それは少女の肩へと近づき、そのまま身体の中へ入ってしまった。

少女は慌てて肩を見ると、そこには勾玉の形をした跡が残っていた。

少女は立ちあがり、山を下り始めた。江戸の町へと向かう。

村を襲った奴等の手がかりはたった一つ。

幕府の旗を背負っていたこと。

憎い敵―――少女の心にはそれだけが残る。




緋勇龍華。それが彼女の名前である。





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